あいつシリーズ クリスマス

泊瀬光延(はつせ こうえん)

第1話 あいつと俺

 るんるんるん・・・るんるんるん・・・


 俺の心は浮き立っていた。今日はクリスマス。悪友達と一緒に、林太郎を恵比寿のガーデンパレスにクリスマスツリーを見に行こうと誘ったのだ。

 今年の春に初めて、俺は同じ大学の新入生のあいつに会った。その時から俺の頭にはあいつが棲み付くようになった。

 冬の初めに、俺は偶然に大学応援団の悪どもに犯されそうになったあいつを救った。怖い者知らずのあいつは、応援団の団長に声を書けられた時、団長の鬼芦(おによし)の金玉を蹴り上げるという挙動に出て、怒り狂った奴らに襲われたのだ。

 それからというものあいつは俺と俺の親友(悪友とも言う)の中に何とはなしに入ってきて、今では完全に仲間として溶け込んでいた。悪友共はそれぞれ水泳部や陸上部で活躍しているので応援団も手が出せないのだ。絶好の隠れ蓑というわけだ。


 あいつが男なのに他の男達に犯されそうになったことは、俺しか知らない。痛い目にあって、少しはおしとやかになると思ったが、サッカーの世界では数々の武勇伝があるようだ。

 あいつはサッカーの天才ということで大学の内外で少しは知られるようになっていた。しかし俺の前では何となくしおらしい。俺に対して敬意を抱いているのかも知れない。なにしろ、あのタッパが2メーター近くある応援団長の鬼芦(おによし)の両手の親指を、捻り折ったのだから。俺はスポーツは何もやっていないのだが、子供の頃から体は頑強で握力が人一倍あるのだ。


 俺はみんなで飲んで騒ぐ時に、あいつの表情を眺めるのが好きだ。あまり酒は強くないが快活で人をそらさない。それに男が恋人にしたい男という学園祭のアンケートで一位になったらしい。

 俺の悪友達は口さがない(遠慮無い)連中なのであいつを女の子みたいにからかう。多分、他人から同じことをされると怒り出すのだろうが、俺たちには笑って受け流してくれる。

 そんなことが周りに分かってくると俺たちは大学内でも羨望の目で見られるようになった。鬼芦みたいな奴等から王女を守るナイトの様だ。

 あいつもそれを知っているのか俺たちの前で時々高貴な婦人のまねをする。それが本を読まなくなった現代人がもうしないような、妙に香(かぐわ)しい遊びをしているようだ。あいつは歴史小説家志望の俺の話題について来れるので、文学の知識もあるようだ。

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