第二章 第17話 騙してたってことだよ
さて、ぼくは今、小学生のころまでちょっと仲が良かった同級生の女の子の家にいる。リビングのソファに腰をかけ、茶葉からティーポッド…じゃない、ティーポッ「ト」だっけ、ガラス製の洒落たそれで淹れてくれた紅茶をチビチビ飲んでいる。
そこまでは良いんだ。そこまでは。問題は僕らは23歳になっていて、その昔、仲良かった女の子には数日前に突然地元のコンビニで再会した。
「タイムマシンに乗ってほしい」
そう言われてさ、乗るか?
乗った。
僕は馬鹿なんだろうか。
疑問形をつかうな。
馬鹿だよ。
小学生時代、同級生だった女の子…江上京子は美人になっていた。いや違うか。小学生のころから美人だったんだ。そして、小学生のころと変わらずに僕に接してくれた。無職で半分引きこもってて、彼女どころか男友達も女友達もいない僕に。
「タイムマシンに乗って欲しい」
思えば絶妙だったと思う。これが「壺を買って欲しい」とか「教祖の~」とか、「この鍋は普通のと違って~」とかさ、聞いたことある系だったら断っていた。
「実は昔から好きで~」これだって逃げてたな。くそ。
「タイムマシン」誰だってまさか本物とは思わないだろう。
でも、間違いなく過去に行った。競馬で勝つ馬を知っていて、その馬券で大金を得た。全部妄想だったとは思えない。そして戻ってきたんだ。
僕が存在しなかった世界に。どこにも僕の家がない世界に。
「パラレルワールドってやつだよ」
そうですね。それでどうする?またタイムマシンに乗って、過去に行って、現在に戻ってくる?
京子がして欲しいと言ってるのはそういうことだ。今回は失敗した。次は成功するかもしれない。でしょ?
そうか?なんの保障もない。それだけじゃなくて、京子は嘘をついていた。こうなることは多分、わかっていた。でなきゃ、こんなに落ち着いていられるはずがない。
「また乗る前にさ、状況を整理したい」
数分後、僕が放った言葉はこれだ。どうなんだろうね。大人っぽく、ふさわしい言葉なのかどうか。
「何が気になるの?」
京子は上目遣い…じゃないな、三白眼気味の、そして大きな眼で、僕の眼をにらむように見つめながら言う。
「京子はこれ、初めてじゃないだろ」
でなきゃこんなに落ち着いているはずがない。
「そうだよ?」と京子は答えた。
「何回目?」
「うーん、何度も繰り返してる。回数はたくさん」
思ったより酷い答えで、却って冷静になってしまう。
「てことは、こうなることは、わかってた……ってことだよね?」
「わかってたわけじゃない。それは正確じゃない。私は永井、きみと同じように行き場をなくして、どうしようもなくなって、やむなくきみに頼った。そして失敗したの。確かに、何回も繰り返してるから、こうなる可能性があるとは思っていた。それはそう。それを言わなかったのは、本当に申し訳ないと思っている」
「いやあのさ、謝ってすむ問題じゃないよこれ。というか、完全に僕を『騙していた』ってことだと思うよ。この状況」
「わかるよ。ごめんなさい。どうしたら許してもらえる? わかると思うけど、いま私、どこにも行き場がなくて、永井しか頼れる人がいないの。それは永井も同じだよね?」
まあ結局ここに戻るんだよな。騙されて山に連れてこられて遭難したとき、頼れるのは連れて来たやつ1人だけって状況なんだ。山よりだいぶ酷い状況だけどさ。
「とりあえず、また乗るにしてもさ、何かプランを考えよう」
「私が考えるんでしょどうせ」
僕に何ができる?何にも知らないんだぜ?
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