第11話 飛ぶんだ
赤いレバーを引くと「タイムマシン」「潜水艦」……なんでもいいけど、ぼくと江上京子を乗せた黒い金属の筒は振動を始めた。
(これ、ほんとうに動くのか)というのが正直な感想で、ずっと細いとはいえ、車ほどの長さの金属が振動している。それだけの動力を積んでいたことに驚いてしまった。
この時点で、(もしかして)という気持ちが芽生えてきたことはたしかだ。ひょっとして、もしかして、まさかだけど、本当にタイムトラベルするのかも。
振動の中でふと気づくと、視界がにじむように変化している。瞼の上から眼球を圧迫されたときみたいな光と視界の変化。これはマズいなと思ってハッチを開けようとしたがロックされていて動かなかった。視界はどんどん狭くなって傾く。力が抜けて崩れ落ちるように座席に座ったところで意識を失った。
次の瞬間という感覚ではあるんだけど、ハッと目を覚ました。酷く汗をかいていて、ながく座っていたのか驚くほど腰が痛い。そして尿意。自分がどこにいるのか曖昧だったけれど、とりあえず立ち上がろうとして天井に頭をぶつけた。
前席に京子はいない。
少し不安になりつつ、今度は慎重にハッチを開ける。ロックはかかっていない。開けると、青く晴れた空が見えた。
顔を出してあたりを見回す。ここは明らかに江上京子の家の庭ではなかった。
丈の短い草と砂利の地面。どこだよここ。一瞬ためらうが、そのまま体を出して地面を踏みしめる。
外に出て周囲をよく見て小さく息を飲んだ。ここはぼくの家からほど近い駐車場だ。
でも、その駐車場はぼくが小学生のころには、すでに家が建って無くなっていたはずだ。
「あ、起きた」
振り向くと、京子が駐車場の端、コンクリートの壁になっている場所に立っていた。
「全然起きないからちょっと心配したよ。昨日あんまり寝てなかったりする?」
そういう問題じゃねえだろうと思いながら、歩こうとするけど体がしびれてしまってうまく歩けなかった。
「ここどこ」そう質問するしかない。
「だから、15年前。そう言ったでしょ」
マジで?
「まだ信じてないでしょ。とりあえず出かけようよ」
歩き出して5分後、ぼくはもう信じるしかなくなっていた。歩いていれば、家の近所が昔のままだなんてすぐわかる。
決定的だったのは駐車場から坂の下へ降りた交差点前にあった「相模屋」で、ここはぼくらが小学生のときに閉店している。その後放置されていた建物に中学生が入り込んで火遊びだかタバコのせいで火事になって取り壊され、今は家が5軒か6軒建っている……。はずなんだけれど、目の前には営業している相模屋がある。
「わかった。ずっと疑ってて、悪かったよ」
店の前で、ぼくは京子に頭を下げた。もはや疑うべくもない。タイムマシンというのがなんなのかわからないが、ここは確かに昔だ。
「でしょ!だいたい嘘ならなんでそんな嘘つくっていうの?!」
めちゃめちゃ勝ち誇った顔で詰め寄られるが、これはさあ、仕方ないと思うんだよね。
「で、問題はここからなのよ」
そう京子は言った。
「結局、このタイムトラベルをどうするかを考えないといけないの」
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