第9話 クソみたいな人生
昼過ぎにひとり目を覚ました。携帯電話をみる。何もない。メールも来ていないし、着信履歴もない。いやまあ、いつもそうなんだけどさ。
友達、いないし、彼女どころか、女の人とは縁なんてないからさ。
部屋のPCを立ち上げてシヴィライゼーションⅣを始める。難易度は国王。日本で始めてすぐアステカのモンテスマに襲われ滅ぼされてしまった。くそ、と呟いてゲームを閉じる。
PCから離れてトイレに行くため1階へ降りる。なんとなく携帯電話をズボンのポケットに入れた。普段は部屋に置きっぱなしなのに。
トイレで用を足しながら携帯電話を開いてしまって、自分がハッキリと携帯電話を意識していることに気付いた。いや、携帯電話というより、江上京子が気になっているのだ。
いやまあ、そりゃ気になるよ。友達は一応、1人か2人いる…といいたいけれど、一応としかいえない。小学校以来の友人といえば聞こえがいいけれど、お盆とか年末に地元に帰ってきた時に、声をかけてくれるかな?くらいの仲。
うちに来てくれて、少し話したり、向こうの家に行って少し話す。友達として、ぼくのことを少しは気にかけてくれているのかな。
1人はこの前就職、もう1人は何だか外国でもう1年くらい学生するとか言ってたかな。それだって、うちの親が向こうの親に聞いた情報。直接教えてくれるほどの関係性はないんだ。
それって友達なのか?とは思うよ。
あとはネットで知り合った人たち。趣味というか、ぼくは小学生の頃プラモデルが好きだったから、数年前にプラモデルの作例とか紹介しているサイトをのぞいて、掲示板で質問したのが始まりで、チャットするようになって、たまに飲み会とか、プラモデル関連のイベントにご一緒させてもらうようになった。
プラモデルは別に作ってない。プラモデルになっているアニメ、ガンダムやボトムズも好きではあるけれど、詳しくないし、戦闘機とか戦車に詳しいわけでもない。見たことはあるから、会話についていってるだけ。
彼らはみんな立派な大人で社会人とか、学生。本名は知らなくて、ハンドルネームで呼び合う。「今は何をしてるの?」って聞かれて、学生だって答えた。それから数年、まだ大学生ってことになってるわけだよ。「そろそろ、会社員になったことにしないといけないかな?」なんて考えながらね。
身元がバレちゃうのが怖いからみたいな顔して、大学の話とかはボカして話して、誤魔化す。全部嘘だよ。ただの無職。飲み会には親に頼みこんでもらったお金で参加している。
全部嘘ついて、インターネットで仲良くしてもらっている。ぼくのこと、何も知らないから、表面では仲良くしてくれる。
なんなんだろうね、この人生。
わかっている。中学に行けなくなったところから、なんなんだろうって、思い続けているんだ。
わかっている。どうしようもない人生だって、わかっている。
ときどき、寝る前に、目を覚ましたら、中学1年、学校に行けなくなる前の朝に戻れないかなって、思いながら目をつむる。
目を覚まして、酷く失望する。その繰り返し。
だいたい、今の記憶をもって中一に戻ったとしても、学校に行けるようになるかなんて、わからないよな。いや、たぶん行けない。
中学行けなくなって、でも義務教育だってんで中学を卒業したことになって、入ってしまった通信制高校は、ときどきスクーリングって言って、登校する日があってさ、社交性がある奴はそこで友達をつくっていた。僕は無理だった。誰とも仲良くならず、ただ課題を出して、卒業した。進路はない。ただの無。
バイトもさ、人と会わないポスティングとかしかできてないもんな。接客業、ファミレスでやってみたけどさ、一日でクビだよ。そんなヤツいるの?
あの店長のぼくを見下した目、忘れないからな。
フリーターもできないんだなって、親に知られたくなくて、バックレたフリをしているんだよ。”やる気がない奴”のほうがさ、”人とマトモに話せない奴”よりだいぶマシでしょ。
ぼくはさ、ただ生きている。親から少しお金を貰って、PCは父親のお下がり。弟は大学生になって、家を出て行った。ぼくはただ、生きているだけ。
自殺でもすればさ、その時はちょっと親は悲しむだろうけど、どうだろうね。すぐにほっとするんじゃないか?お荷物なの、見えているだろう?
だからさ、江上京子にあのコンビニで声を掛けられたの、正直嬉しかった。わけわからないこと言う女でもさ、年頃の女性と話すことなんて、ないわけだよ。多分さ、ぼくはキャバクラとか行っても楽しめはしない。
もう、これから一生、上がり目はないんだよ。勉強ができるわけじゃないから、一念発起して大学に受かったりしない。受かったとしても、もう年だし、就職なんてできない。やるだけ無駄。
一瞬、死ぬ気で勉強して弁護士とかさ、難関資格を取ればとか思ったよ。親に金もらって、参考書とか買っちゃって。馬鹿だよな。勉強したことないのに、急に出来るわけなかった。
ほんと、ネットくらいしか、救いがないんだよ。それも、嘘で固めて、ちょっとだけ、かまってもらえる。
ほんと、何なんだろうね、この人生。
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