第6話 小さくて黒い
江上京子は話を続けた。
「だからその”ハント”って呼ばれてる人はそこでヤバいって思ったの」
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アーサー・ハントはそれから2匹のネズミを装置に押し込み、作動させ、けっきょくのところ合わせて3匹の死んだハツカネズミを並べることになった。温度か圧力。ハントがネズミの死因として疑ったのはその二つだったが、取り出した時にはネジも時計もネズミも、なんらの変化も認められなかった。
ハントは死んだハツカネズミを観察した。見た目にはどんな変化もなかった。出血はない。小さな眼球は飛び出てもいないし、引っ込んでもいない。腹を注意深く触ったが、内臓が破裂している兆候はなかった。
「健康に見える」とハントは呟いた。死んでいることを除けばだ。
だとすると。ハントは放射線に思い当って恐怖した。温度も圧力もだが、わずかな電力で動くこの装置に、強力な放射線を発生させることができるとは思わない。だがハントはそれから数日かけて小型の気圧計、温度計、それから放射線計を用意したが、結局のところ、それらからはどのような変化も計測されなかった。
しかし、計測時間だけは常に異常であった。10秒ほど消える黒い紡錘形は、戻って来たとき時計が10分から30分程度進み、気圧や温度、放射線の計測時間も時計と同じだけ計測されていた。
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だんだん京子は話すこと自体に熱が入っている。
「あのさ」手を挙げて話を遮った。「ハントさんの話はいいからさ、人が乗っても大丈夫って根拠は?」
「だから順を追って話してる…でもまあ、そんなところで乗ってみようよ」京子はニヤリと笑った。
「安全だって根拠は?」
「おいおい話すよ。とにかく、今のところ正しく使って怪我した人はいないの」
結局のところ、危険も安全も京子の話でしかない。あとは機械をみて判断するしかないだろう。
庭は家の北側にあって、それほど日当たりはよくない。結構広くて、子どものころ京子のお父さんのゴルフ道具とソフトボールで2人してゴルフをやってかなり怒られたのを覚えている。
ゴルフ道具を入れてあった物置はいまも庭にあって、ツタ植物がすこし這っている。
「物置にあるの?」そう聞くと京子は首を横に振って茂みの方を指さした。
茂みの中に、濃緑色の防水シートで覆われた何かがある。木の板とか立てかけてあって、粗大ごみを積んであるのかと思ったけど、違うようだ。
「手伝って」そういって京子はバサバサと防水シートを外し始めた。
シートの下からはやはりというか、あの「飛翔体」そっくりの黒い物体がある。材質は相変わらずわからないが、今度は黒いペンキみたいな塗料が塗ってあるようだった。ただしデカい。バイク2台分くらいの長さと高さかな。高さ1メートル、幅はもう少し狭く、長さは3メートルくらいはあるか。紡錘形というより、円筒形に近いか。あの小さな「飛翔体」と比べるとあちこちデコボコしていて、ガラクタ感が
強い。小さな、真っ黒い潜水艦。それが見た感じの印象だ。
「狭くない?これに乗るの?」長さもだけど、高さがつらそうだ。
「窮屈だけど、タイムマシンって、そんなに長く乗るもんじゃないから」
どこかで見たことがある気がした。
「ちょっと待ってね」京子はそういって上面に付いたハッチのようなものをつかんで持ち上げた。中は空洞なんだろう。覗き込むと真っ暗だった。
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