黙示録のコンビニエンス・ストア

えりぞ

フードコートのタイタニック号

 江上京子と最後に話したのはいつだったのか、明瞭に思い出せる。彼女もぼくも12歳だった。記憶の中、近所のスーパーのフードコートで、彼女はソフトクリームを食べながら、細長い脚をイスからぶらぶらさせて話している。


「タイタニックって映画、知ってる?アメリカですごい人気らしいよ」

「知らない」と答えると、彼女は少しイラッとしたのだろう。顔を歪めて口を尖らせた。


「だからダメなんだよ。まあいいけど観に行こうよ。二人でさ。船がボカンとぶつかってさ、凄い迫力なんだって」

そういってソフトクリームにかぶりついた。


「そうだね、観に行こ」と答えると、「日本に来るの、冬みたい。楽しみだよね」

 午後の陽が斜めから差し込む秋のフードコートで、彼女は笑っていた。


 結局、タイタニックを二人で観に行くことはなかった。僕は20歳になってから、TSUTAYAでDVDを借りて観た。

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