キンキラ従騎士と小太りニートの人生アドベンチャーテイル
よつま つき子
第1話
何が嫌って、そりゃ家族の視線だよ。
お前いい歳して何してんの?みたいな。
小学生ン時は良かったなー。
きったねー段ボール庭に集めて秘密基地作ったり、友達の家巡り歩いてゲームしまくったり。勉強も運動もまるでダメだったけど、例のゲームやりこんでりゃ人気者、隠しゴール教えてやったら英雄扱い。
あのレアモンスター持ってるよ、なんて言おうもんなら、俺と対戦するために行列ができる始末だ。
よく考えたらあの時代の俺ってマジチート使いだわ。
義務教育の間はそれでなんとかなるけど、問題は高校なんだよなぁ。
そもそも誰だよ、義務教育を中学で終わらせやがった奴。せめて高校ぐらいまでは引き上げてほしいもんだ。受験なんてさ、成長期の子供の精神マジで蝕むから。
悪い事言わないから、文科省あたりは考え直した方がいいよ。ま、28歳とかすでにうっすら崖っぷちの俺には関係ない話だけど。
中3の夏休みになってさ、初めて気づいたんだよ。何の準備もしてねーのって俺だけだって。
中学上がったあたりから塾とか通い出す奴がいて、遊び友達がちょっとずつ減っていったんだよね。でもまあ、そうは言っても中1だしさ、まだまだ小学生気分が抜けねーわけよ。
1年間はまだまだヨユーって感じで鼻たらしながら過ごしてたけど、中2にもなるとやっぱちょっと色気づくっちゅーのかな。
女子の目がね、気になりだすんだよね。
あいつ、とうとう告ってOKもらったらしいぞ!とかそういう噂聞くとさ。あー俺もそろそろカワイイ彼女欲しいなーなんて思っちゃうわけ。
あ、鏡見ろよボケがとか、そういうのはいいですから。
今までそういう恋愛スキルなんて上げたことねーから、告るってどうやって?何言えばいい?そもそも女子って何話したらいいの?ってなるんだよ。
だからってそんなの友達に聞くのはカッコ悪いし、その手の雑誌もあるにはあるけど、なんも分からん俺からしても怪しい口説き方しか載ってなかったり。
そこで俺ができることって何だと思う?
ゲームだよ。
ゲームしかねーのよ、ぼくには。
二次元ってマジ恐ろしいよね。リアルの女子といい感じになりたくて、練習台にって思って始めた恋愛シミュレーションもの。気付けばリアルなんてどうでもよくなるほどにのめり込んじゃった。
三次元?なにそれとってもマズそうだね!って当時の友達の前で堂々と言い放ったった記憶はまだ鮮明に残ってる。
できればあの時の俺の口をふさいでとりあえず2,3発ぶん殴っときたいけど、それは無理だから普段は脳みその隅っこに追いやってる。
今みたいにたまに思い出してあああああああってなるのが悩みの種だけど、まあこれはそんなに問題ない。も、問題ないんだってば。
で、中3ね。
まさに中2で発病した俺が1年そこらで改心するはずもなく。画面の向こうの推しキャラとラブラブしてたらあっという間に夏休みが来たわけよ。
その頃には親もちょっと口出すようになって、あーもーうるせえなー、俺の人生に口出すんじゃねえよ、なんて思ったり、実際口に出してたり。
そんな口の出し合いの攻防戦がしばらく続いたわけだけど、「あんた毎日毎日部屋にこもって何やってんの!」っていう母親のヒスなんて、まともに相手してらんないだろ?
だからさ、まあ、なんつーのかな。
ちょっとはやってるとこ見せて黙らしてやろうかって、母親からカツアゲして……あ、いや、実際は土下座して資金提供のお願いしたら、背中踏まれながら千円札何枚か叩きつけられたんだけど、とにかくその金で適当に見つくろった参考書やらを手に入れたわけだ。
ほら、よくあるだろ、『難関高校が過去5年間で出した入試問題』とかさ。
で、その戦利品を机の上にかろうじて残ってる狭いスペースに広げて、鉛筆持って、問題読んで、問題読ん、で…。
いやもうお手上げっすわー、何書いてんのかさっぱりですわー。
絶望したよ、俺。この日本という国に絶望した。
生まれてこのかた、日本語のシャワーを浴び続けたこの俺。まさか理解できない日本語があらわれるなんて、思いもしなかったんだ……。
ちゃんと分かるように書けよクソッタレ!ってその本床に投げつけて。
俺の受験勉強は、覚えてる限りじゃその数分で幕を閉じたよ。
時間を無駄にしたみたいで腹が立ったから、友達に電話したのね。ゲームでもやってスカッとしようぜ的な。
そしたらさ、どいつもこいつも「勉強があるから…」って断りやがんの。結局誰一人つかまえられなくて、その日は仕方ないからとりあえずふて寝した。
そこからだよ、俺の人生の歯車が狂い出したのは。
あ、もっと前から狂ってたよとか、そういうのはいいですから。
そんな状態で行ける高校なんて限られてるじゃん。先生は「合格できたことが奇跡だ」とか失礼すぎること言ってたけど、まあ超ド底辺三流以下の高校になんとか滑り込んだわけ。
そこでやることって何だと思う?
勉強? 部活? 生徒会活動?
いやいや、違うから。
一応授業はあるけど、そんなこと真面目にやってるやついねーから。
そういうとこに行くやつって、勉強『できない』んじゃなくて『しない』のがほとんどなのね。まあ、やってもできない人間もいるにはいるけど。
なんでやらないかって言うと、他にやりたいことがあるから。あ、俺の場合はゲームね。カワイイぷりんとした女戦士がだいすきです! ……じゃなくて。
しないからできなくなって、置いてかれて。でも勉強なんてやってる暇ねーんだよな。ゲームしなきゃだし!で、またできなくなって置いてかれて……負のスパイラル、まじこわい。
そんな悪循環に陥ったやつが集まった学校だから、授業中は休み時間とおんなじ。しゃべったりお菓子食べたり居眠りしたり落書きしたり。
教室内にいるならまだマシで、おなクラなのに顔を一回も見たことねーやつもいた。
先生も暗黙の了解って感じで、とくに注意するでもなく、淡々と教科書読んで黒板に謎の言葉残して一時間目終了。
1日に5,6時間あるとして、それが週6日、月にして20日ちょっと。年単位はもう面倒だから偉い人だかエロい人だかにお願いするけど、まあ3年間続くわけだよね。
当然のことながら、なんの足しにもならんわけだよ。こんなクソみたいな授業しただけで給料もらえるとかどうなってんだよこの国は、なんて憂えたこともあったなぁ。
あの頃の俺、マジたぎってた。
で、えーと、そうね。
まあ、そこでも彼女なんてもってのほか、友達すらもできないよね。だって俺、ゲームしか知らねーもん。
「君はあの戦闘シーンにおけるヒロインのパンチラをどう思うかね?」
なんて話題の振り方しかできねーもん。
ヒエラルキーではほとんど最下層、いわゆるボッチってやつですよ。便所飯やったなー。そういや屋上に逃げ場を求めたけど立ち入り禁止で、めちゃくちゃヘコんだこともあったわ。
ホント、3年間も俺どうやってやり過ごしてきたんだろって思う。
いじめらしいいじめっていうの?そういうのがなかったのは幸いなんだろうけど、誰とも何の交流もないっていうのは、地味にきつかった。
なんせ俺、小学生時代はみんなのヒーローだったからね! ボッチなんて新しい文化に触れて、そりゃあもう大きく変わりましたよ!
ええ、ええ、そりゃあもう立派にねじ曲がったさ!
母親は俺を3年間もあのしょうもない学校に行かせたことを後悔してた。父親は別に何も言わなかったから、何とも思ってないんだろう。弟は、「話しかけんなブタが」って言ってから、その後口もきいてくれなくなった。
あ、そうそう、俺弟いるんだよ。
俺が8歳のときに生まれた、当時はめちゃめちゃかわいい生き物でさぁ。兄ちゃん兄ちゃんって小さいときは追っかけまわしてたくせに、今じゃすれ違いざま目が合うだけで小突かれるし、夜中ゲームしてたら壁ドンして威嚇してくるんだぜ。
何あれ、めっちゃ怖いんですけど。
でも両親からは期待されてるっぽいし、大学の勉強も、サークルとかゼミとかの活動もちゃんとやってて、まさにリア充街道まっしぐら。
つーかさ、俺、弟がどこの大学行ってるとか知らないんだよね。誰もなんも言ってくれねーもん。俺から聞いたらボコボコにされそうだから、聞くに聞けないっつーか。
いやあ、こうしておのれを振り返ってみると、驚くほど空っぽだよね。
底辺高卒で職歴なし。彼女も友達も……うん、友達も、いない。
驚きの白さなら、俺の経歴だって負けてないぜ! そもそも何にも持ってないんだし、失うものなんてないわけだよ。
あ、まだクリアしてないゲームもあるからその辺は心残りかな。
だから。
俺、今日で人生終わらせるんだ。
しばらくは後処理とかで迷惑かけるだろうけど、それも時がたてば終わるだろ。もうタダ飯食わせなくて済むし、試験の準備を邪魔するような騒音もなくなる。ご近所さんからの好奇の目も、その内やむと思う。
少なくとも、俺が生きてる時よりかはマシにはなるんじゃないかな。こんな脂肪ばっかり蓄えて他の大事なモンぜんぶどっかに置いてきたブサメンなんて、生きててもしょうがねえよ。
ハハハ、ふだん一滴も飲まないくせに無理にビールとか急に流し込むもんじゃねえな。なんか頭くらくらするわ、目がしょぼしょぼして涙出るわ、ホントいいことなしだ。
あー、親父はこんなクソマズイもんを俺と酌み交わしたいとか言ってたのか。
どうしようもねえ親だよまったく。
死ぬならやっぱ、高層ビルから飛び降りるのがいいかな。一瞬で終われそうだし、痛いとかきっと分かんないだろうし。
線路に飛び込む手もあるけど、損害賠償がものすごい事になるらしいからやめとく。
あれ、ビルからの飛び降りでもそういうのって発生すんのかな?まあでもダイヤが遅れるとかはないだろうし、大丈夫だろ。
うん、決めた。
じゃあまあ、とりあえずそこの花壇で飛び降りる練習でもすっか。
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