その夜の照り返し

今居一彦

下書きメール

 冷え切ったリビングの片隅に一台のノートパソコンがあった。能見のうみは、部屋の明かりもつけず、暗がりにまだ目が慣れない中、ほんのり雪明りが部屋の骨格を映し出すのを感じとると、パソコンに歩み寄り、電源を入れ一言呟いた。


「まだいけるかもしれない」


 風呂上がりの温感がすっかり抜け切った身体は、裸足の爪先からじわじわと感覚を凍らし始めていた。


 パソコンが立ち上がると、すかさずメールにログインした。大量の未読メールで溢れた受信トレイには目もくれず「下書き」を開いた。沢山の下書きには件名が空白のものも多かった。


「あった」


 能見は思わず声を上げた。そのメールの件名は「はじめまして」だった。最終更新日からかれこれ二年ほど経っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る