邪神ちゃん

第1話

みんな、心の中にジブンを隠している。

ワタシだってそう、ジブンのやりたいことをやらずに、我慢していた。

みんなのために、ジブンのために、何より家族のために。

日常を壊したくないから、抑えてた。

笑えなくても笑った。

叫びたくても我慢した。

ああ、なのに、カミサマ。


あなたは、本当に残酷だ。


11月17日

とある家に連続殺人事件の犯人が押し入る。

そして、父親と母親を殺したあと、娘に反撃で殺された。

現在、娘はパニックに陥っている。

かわいそうに、もっと俺達が速くアレを捕まえていれば……。


12月24日

なんてこった。

一体誰が予想した?

あの娘、とんでもない本性を持ってやがった。



「………」

「花ちゃん、ここが新しいお家よ

……速く元気になってね」

ワタシは親戚の家に預けられる事になった。

お父さんとお母さんは殺され、そして元々いた町に他の親戚はいなかった。

だから、大切な友達と離れる事になり、悲しかった。

ワタシの家族だけではなく、友達まで手放すことになった。

サイアクだ、なんて軽い言葉では表せないほど、悲しかった。

ワタシはまだ中学二年生、自分でバイトをして生活費を稼ぐなど出来ない。

だから、こんな知らない親戚がワタシの親となり育てられることとなった。

正直、嫌だ。

……今は12月2日。

みんなと、クリスマスを祝いたかった。

……いや、駄目だ。

今、みんなとあったら、ワタシは

「……花ちゃん?」

「っ、すみません、ボーッとしちゃってて」

「大丈夫?辛いならすぐに言ってね?」

「大丈夫です、心配かけてすみません」

気づかれたくない。

知られたくない。

堕ちたく、無かったんだ。

こんな、親戚なだけのワタシに優しくしてくれるおばさんを、殺したく無かったんだ。


「おばさん…駄目だよ、ワタシに優しくしたら」

ぴちゃり、と水溜まりがはねる。

指先からルビーの雫がこぼれ落ちた。

「…やっぱり、優しい人には、綺麗なモノが流れてるんだね」

『一緒に、寝よっか』

「優しすぎるよ、暖かすぎるよ、おばさん」

『ご飯、何食べたい?』

「ああ、ごめんなさい、おばさん、ワタシ、嘘ついてた」

『何もないの?ほんとぉ?なら、おばちゃんが得意なハンバーグをつくってあげる!』

「……ワタシ、好きだよ、美味しいね、ハンバーグ」

ふかふかの布団は柔らかく、ルビーの液体を受け止めていた。

そして、下にある、肉塊を隠している。

「勝手にキッチン使ってごめんなさい、夜遅くにご飯食べてごめんなさい」

でも、この肉塊こそ、暖かくて優しい人。

「やっぱり、目をみて謝らないとね」

ワタシは涙を浮かべ、机に向き合った。

おばさんの顔を見て、ワタシは…

「ごめんなさい、ありがとう、美味しかったよ、おばさん」

お礼を、言った。


少し焦げているハンバーグは、おばさんのハンバーグには劣るけど、でもおばさんのハンバーグだからとても美味しかった。

ワタシはこの夜、おばさんの匂いに包まれて眠った。

気持ち悪いぐらい、今までで一番、ぐっすりと眠れた。

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