第5話「悪夢は終わらないという哲学」
「な、なぜ」
男の野太い声が聞こえる。
「な、なんで……」
俺が守った女の声もする。なぜもくそもない、いてぇんだよ。
「なぜ今のを食らって生きてるんだお前は、それは痛いとかそういう問題じゃないんだぞ。完全にお前ら二人を消し去る力だったのに」
目がくらんでいて男の様子はわからんが、どうやら相当動揺してるようだ。馬鹿野郎、文句を言いたいのは俺の方だ、これは夢じゃないのか、こんな痛いなんて聞いてないぞ。
「ねぇ、あなたは一体何なの? 精力も並みじゃないけど、今あなたから出てる魔力は普通じゃないわ、まさかあなたはナイトメア……いえそれ以上、ホーリーナイト?」
盛大に吹き飛ばされ、痛みでうずくまる俺に、女は駆け寄ってよくわかのわからないことを言い出す。同時に女はうずくまる俺をだきしめ続けている。するとみるみる俺の体の痛みが消えていく。
「こ、これは……」
「回復させてるから、少し待って。大丈夫ベルフェゴールもしばらくは大技をうったりできないから」
「な、なあこれは夢じゃないのか、痛みといいい、感覚といい、現実にしか思えないんだが」
「夢と言えば、夢。ただし夢の中に現実のあなたが入っていってるわ。昨日、私とあなたが遊んだ時と一緒よ」
なんだ。やはりあのセックスは本当だったのか。
「君はまさか、コスプレなわけじゃなくて……」
「——言ってるでしょう?本当のサキュバスよ。あなたが死ぬまで精を奪い取るつもりだった……。さあ回復が終わったわ、ベルフェゴールを倒しましょう、あなたの力ならできるわ」
「俺の力っていっても、ただの高校生だぜ。いっちゃ悪いがケンカもしたことねぇぇ」
「大丈夫よあなたの精力は間違いなく宇宙一だわ。だって私がかなわなかったんだから。そして今あなたからあふれてる力もとんでもないわ。あのベルフェゴールをはるかに凌駕している」
そういわれれば、確かにさっき攻撃を食らってからは、みなぎる何かが体中にあふれてる気がする。
と同時になぜか股間の元気も止まらない、完全にもっこりしている。
フルもっこり!
恥ずかしい……
「立派だわ……」
隣でサキュバスがうっとりとした目でそれを見つめている。いやいや、今そんな場合じゃないですから。
「どうしたらいい」
「家に帰ったらおさめてあげるから安心して」
「いやそうじゃなくて、あいつを倒すんだろ?」
「そうね、エッチはあとね。わかったわ、これだけの力があれば何も考えずにあなたの魔力をあいつに、全部ぶつけるだけでいいのよ。イメージして、勢いのある言葉とあいつにぶつける姿を」
イメージする?
勢いがあって、そして相手にぶつける姿と言葉。
そして今のおれフルもっこり状態。
ダメだ、この言葉しか出てこねぇ。もういいやるしかない、俺の魔力をすべてあいつにぶつけてやるっ、行くぜ。
『ドーーーーーーーーーーーン!』
イメージは完全に黒タイツの芸人だった。
そしてドーンという俺の言葉と同時に、ベルフェゴールははるか遠くへ飛ばされていき、空のかなたできらりと光ったように見えた。どうやら星になったらしい。
「素晴らしいわ、予想以上よ……。こんなすごいものを私は昨日受けていたのね。それは勝てないわけね」
「まったく、何がどうなったかわからないんだが、とにかく倒したってことかベルフェゴールってやつを」
「えぇ……大丈夫もう立ち直れないでしょう。それに、今後何が襲ってきてもきっとあなたなら」
そうか……よくわからないけど、助かったのか。
うん? 変な感触を感じた。
サキュバスはうっとりとした表情のまま俺の股間をさすり続けている。
「昨日の続きする?」
にっこり微笑まれてしまった。
はっと目が覚めた。
変わらぬ景色だった、目の前にはさっきまで以上にぎゅうぎゅうに押し込まれた人団子たちである。
『次は、古河、古河です』
車内アナウンスが聞こえた。
そうか、そんな長い間眠っていたのか。結局夢だったんかな、なんだかよくわからないけど、ほんとわけのわからない一日だった。
ハロウィンに渋谷なんていくもんじゃない。
それに、……股間がフルもっこりのままである。
恥ずかしいな。
その後、学校には寄らず家に帰って、もちろん俺は母親にこっぴどく怒られた。父親は俺ににっこり微笑んでくれたものの、特にフォローはしてくれなかった。
それにしても、あれは夢だったのだろうか。
もう一度眠ればあのサキュバスにまた会えるかなと思い期待して眠りに着こうと思ったが、なんか興奮しすぎて眠れなかった。
そしてそのまま寝不足のまま、俺は高校に向かう。
学校でももちろん昨日のさぼりを、厳重注意された。
まあ仕方ないさ、覚悟の上だったのだから。
だが、ほとんど意味のないはずの高校の朝のHRの時間に珍しく変化があった。こんなタイミングでって? と首ををかしげるほかないタイミングだ。
「突然だが、今日は転校生を紹介する。彼女は親の仕事の都合で急きょアメリカから引っ越すことになってきたんだ、じゃあ
咲羽? まさか……。
ハゲの先生が、そう紹介すると、教室のドアを開けて女の子が入ってきた。
そして、その子が教室の前に立った瞬間、教室がざわっとした。
(美、美人……) (アメリカ帰りか、大人っぽいなぁ)
「今日からお世話になります、咲羽シルアです。よろしくね
そういいながら、シルアはみんなにウィンクをした。
そして、声を出さずに口元の動きだけでたぶん表現した。
(に・が・さ・な・い・ぞ)と。
もちろんそれがこの俺ホーリーナイトに向けられたものであると、もちろん即座に理解できた。
どうやら
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