夜の客人
衣装係を務めるメイドの話。
夜には意外な客人が来ることがある。
ちょっとしたパーティだったり、遊び疲れた友人だったり、時には招かざる者も訪ねてくる。
突然の来訪は警戒するもの。
ただ、その姿がいつも恐ろしい姿とは限らないわけで・・。
「ほら!さっきも見たでしょ!?ワイの力だってすごく役に立つって!!」
「あ~!もうおとなしくしなされ!」
これ・・傍から見たらどんな風に映ってるのかしら・・
あえて言うなら、うら若き娘の寝室で黒猫が2匹あっちこっちと追いかけっこをしている。
パソコンやノートを置いた机の上に飛び乗ったかと思えば、次はベットのうえに足跡を作り、
絨毯敷きの床を音もなく駆けたかと思えば、二匹でどたばたと取っ組み合いを始める。
飼ったことはないけど、猫のケンカはこんな感じだろうと思う。
ただ事情が違うのは2匹ともにゃーとは鳴かず、完璧に人の言葉を話すということか。
あと、一匹は上半身にジレにネクタイを付け、さながら飼い主に仮装をされた飼い猫のよう。
きっかけというか、その来訪は突然だった。
コツコツ――
ご飯を食べ、入浴もすまし、一人のんびりと自室でくつろいでいると、一匹の猫が窓を叩いた。
どんな所でも器用に登るとは聞いていたけど、まさか3階建てのお屋敷の窓にまで登ってくるとは思ってもみなかった。
その猫には見覚えがあった。
昼間にメイドたちと出かけた際、お店の前でうろうろとしている黒猫がいた。
私はほんの戯れに、その猫をなでると一言二言声をかけて後にした。
あの時の猫が会いに来たのかなと窓を開けた。
するりと悪びれる様子もなく部屋に入ると、猫は前足で顔を撫でたり身体をなめたりしてくつろいでいる様子だった。聞いてた通り、猫は非常にマイペースな生き物なようだ。
そして、最後にく~っと伸びをすると、私の方をじっと見つめてきた。
金色の爛々と輝く眼が美しく黒い身体に映えている。
私は猫を撫でようと手を伸ばした。
「あなたがサコちゃんの新しい子?」
ふいに、誰かに話しかけられた。
窓を開けっぱなしにしてしまったかと、後ろを振り向いた。
特に何もない。
「いや~、サコちゃんもまた可愛らしい子を作ったね。オッドアイなんて最高じゃん」
驚いて次はベットの方を振り向く。
さっきまで足元にいた猫はいない。
代わりにパーカー姿の少女が一人、ベット脇の椅子にどっかりと身を預けていた。
「正直どうかな~って思ってたけど、その匂いはサコちゃんのだね」
少女は一人で納得したようにうんうんと頷く。
正直、私はほとんどパニックで何も言葉が出せない。
ただ、彼女がママと懇意にしていたのだろうとは思った。
「さて、単刀直入に言うね」
少女は着ているパーカーのフードをとると、私をじっと見つめてきた。
金色の爛々と輝く眼が先ほどの猫をほうふつとさせた。
「早い話。ワイをここにおいてほしいんだ」
「な」
――なんでそんなこと
と私が言葉を絞り出す前に彼女は椅子から立ちあがると言葉をつづけた。
「もちろん。ただとは言わないよ」
そういって、少女はつかつかと私の方まで近寄ってくる。
「ワイはこういうことが得意なんだ」
ワシっと両手で肩をつかまれた。
突然のことに面食らってしまうが、さらに驚くことが起こった。
―――するするするっ
寝巻として着ていた着物の糸がひとりでに解けていく。
私は肩や裾からどんどん糸がほどけていく様子にあわあわと身体を抱く。
「心配いらないよ~」
少女は軽い様子でそういうと、解けた糸が今度は私の身体にまとわりつくように形作られていった。
ほんの少しの間に、先ほどまでの着物はドレスへと変わった。
白と紫を基調としたドレスに、コルセット・ヘッドドレス・十字架のデザインされたタイと
両眼の色にあわせたコサージュ。
ほらほらと少女は部屋にあった姿見を私の全身が映る位置まで持ってきてくれた。
「素敵・・」
私がやっとそうつぶやくと、少女は満足げにうんうんとうなづいていた。
正直、言いたいことや聞きたいことは数えきれないほどあった。
だけど、口をついて出た言葉は・・
「あなた。名前は?」
「ワイ?ワイはね~・・」
バァン!!
言い終わるまえに、激しくドアの開けられる音が響いた。
「お嬢様!大丈夫ですか!!?」
見ると、一匹の黒猫がドアの前に文字通り立っていた。
執事のにゃん太郎だった。
「む!その気配!魔女のものですな!?」
にゃん太郎は前足を地面につけると、ネコ科の猛獣よろしく激しく駆けだした。
「あ、やべ!」
少女はいつの間にかさっきと同じ黒猫の姿に戻ると、にゃん太郎がとびかかってくるのを避け、
部屋を縦横に走り回った。
「不自然な魔力を感じたかと思えばまさかお嬢様の部屋とは!待ちなさい!!」
「ほ、ほら!ゆなちゃん!ワイの特技見たでしょ!?ワイがいたらいつでもそんな服着れるよ!?」
しばらくの間、どたんばたんと2匹は暴れまわっていたが(私の部屋で)、
このままでは収集が付かないように思えた。
ママの友人とはいえ、突然現れた猫(?魔女(?を居候させるにはにゃん太郎は納得しないだろう。
あ、そうだ。
ふと、彼女の能力と彼女と出会ったお店を思い出した。
「にゃん太郎!止めなさい!」
――ピタッ
さっきまで暴れていた2匹の猫は取っ組み合いをした姿のままぴたりと動きを止めた。
にゃん太郎は怪訝そうな顔で見つめてくる。
「どうされました?お嬢様。侵入者ですぞ」
「侵入者でもなんでもないわ」
ちょうど行ってたお店は服屋だったことだし。
「私の新しい衣装係よ」
ホントに夜には意外な客人がくるものだわ。
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