愛
金色の髪を持つメイドの話。
その子を見つけたのは、多くの船が訪れるとあるシーズンだった。
例年、この季節には多くの貿易船が燃料や食料の調達のために寄港し、長い船旅に疲れ果てた船員達が日頃の垢を落とすべく思い切り羽を伸ばしにくる。
船員たちの姿は十人十色。
普通の貿易商だったり、軍人だったり、時には海賊紛いの者までいるし、人間だったり、悪魔だったり、見たことない種族のモノまでいる。
私はウェディ。
海に生きる自由な民。
人を楽しませ、人に楽しませられる、誰かを愛し、誰かに愛される一族。
私たちは歌を歌い、訪れる者達を大いに楽しませ、私達も異国の話に大いに胸をときめかせた。
私の元に、一組の貿易商の一行が訪れた。
多くのメイドや執事を抱え、裕福で上品な物腰は他の船の者たちとはちょっと違って見えた。
その中に、一人の少女が連れられていた。
足元まである美しい髪を綺麗に束ね、身体にピッタリと合う美しいドレスを身にまとったお人形のような少女だった。
その子を一目見た時、私はなんとも言えない感情が芽生えたのを覚えている。
その日の晩。私はある部屋に呼ばれた。
歌を聴かせようか、物語でも聴かせようか。
そんなことを考えながら街で1,2を争う豪奢な部屋の前に来た。
私が部屋に入ると、昼間の少女がベッドに座り本を読んでいた。
「こんばんは!よく来たわね」
昼間見たあの少女だった。
少女は私を招きよせると、隣に座らせ話し相手になって欲しいと言った。
私は海にまつわる話や伝承などを面白おかしく聞かせた。時には芝居がかって、時には歌もまじえながら。
彼女は私の話を聞きながらいちいち楽しそうに驚き、感動していた。
その新鮮な反応に私は胸がキュッとなるのを感じた。
連日。私は少女の部屋に訪れては話し相手になった。
少女の住む街。お付の者達の話。好きな食べ物や好きな本。嫌いな物も苦手な物も。
お互いの共通するモノも、しないモノもなんでも。
時には話し疲れて一緒に寝てしまうこともあった。
ほんの数週間だけだったけど、私はかつてない楽しみと、抑えられないとある衝動を抱いていた。私のこの気持ちはどれほどの大きさなのかしら?
「もうお別れね…あなたと出会えて楽しかったわ。ありがとう」
少女は私の手を握って名残惜しそうに何度もお礼を言っていた。
うるうると大きな瞳に涙が溜まっていて、なんとも可愛らしい。
私はその日とある決心を胸に、少女の気の済むまで話し相手になった。
出港の日。
多くの船が島を去るという日は、いつも大賑わいな様子になる。
短い時間とはいえ、人と人とが心を通わすには十分だ。
あちこちで次の航海の安全を願い握手を交わす者、離れがたく抱きしめ合う者がいて、離れても愛を誓っているとドラマチックに2人の世界に入り込む者もいる。
私はそれらを横目に次々と準備に取り掛かる船を見つめている。
ほんとにそうかしら?
離れていても愛を誓えるなんてあるかしら?
毎年のようにいろいろな人が訪れては去っていくこの島で、たった1人を愛し続けるなんてできるのかしら。
次々と島から島を渡っては出会いがあるこの海で、ほんの短い一瞬の愛を覚えてなんていられるかしら。
私はある船を見つけると、船荷を次々と運び入れる船員に紛れて、そっと乗り込んだ。
幸い何人もの同乗員のいる船。私が身を隠すのはそんなに苦ではなかった。
船が港を去っていく。
甲板と港では多くの人が手を降って別れを惜しんでいる。
私は身を隠していた場所を抜け出すと、うろうろと船内を探索していった。
時々、すれ違う人にぎょっとした顔をされた。
でも私はそんなのを気にせず、とある目標を探してくまなく歩き回った。
少女は甲板でお付きの者達に囲まれながら楽しげに島での思い出を語っていた。
私はまるで散歩でもするようにゆっくりと優雅に彼女に近づき、彼女の視界にひょっこり顔を出してみた。
「あなた…なんでここに」
少女は私を見つけるとひどく驚いた様子だった。
大きく見開かれた瞳が宝石のように輝いている。
私は彼女に近づくと、そっと抱きしめた。
「あなたと共に生きさせて、私のお嬢様」
一陣の潮風が私たちを撫でた。
私はウェディ。
海に生きた自由な民。
私の愛は誰にも止められない。
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