頭がプリンになっちゃったから、病院に行ってくる

霜月秋旻

頭がプリンになっちゃったから、病院行ってくる

 ある日の休日の朝。布団で気持ちよく寝ていると、彼女から一本の電話があった。


『わたし、頭がプリンになっちゃったから、びょういん行ってくるね』


「………なんだと?」


 私は耳を疑った。いま、彼女はなんと言った?私の聞き間違いだろうか?頭が…なんだって?頭がプリン?びょういん行く?病院!?


「もしもし?もしもし!?」


 電話は既に切れていた。



 私はすぐ着替えて、家を飛び出した。しかし、どこの病院なのかを尋ねる前に電話を切られてしまった。たしかに彼女はプリンが大好きで、一緒に喫茶店に行ったときは、必ずと言っていいほどプリンを注文していた。しかしまさか!プリンを頻繁に食べたからと言って、そう簡単に頭がプリンになってしまうものなのか!?現代の医学の進歩には目を見張るものがあるが、どうやら病の方も著しく進歩している。頭がプリンになる病。『プリン病』と名付けよう。『りんご病』という病もあるくらいだから、『プリン病』もあってもおかしくはない!しかし頭がプリンになるとはどういうことだ?プリンのことしか考えられなくなる、精神的な病なのか?それとも、頭の形そのものがプリンの形になってしまう病なのか?お、恐ろしい。プリンの被り物でもしているような人間がこの先の未来、どんどん増えていくというのか?本物のプリンと勘違いされて誰かに食べられたらどうするんだ?一刻も早く彼女を見つけ出さないと、誰かに本物のプリンと勘違いされて食べられてしまう!




 最寄の病院へと駆けつけたが、病院内を探しても彼女の姿は無かった。頭がプリンになってしまう病気など専門外だと言われて追い出されたのかもしれない。いや、今までにない症状だから、どこかの研究室に連行されてしまったのかもしれない。

 彼女に電話をかけてみたが、電話には出ない。彼女は今、どこにいるのだ!?




 二時間くらい、病院という病院を探し回った後、彼女の方から『いま終わったよぉ!』と電話がきた。


「お、お前、いま何処にいるんだ…?大丈夫なのか?」


『びょういんの前だよ。大丈夫って、なにが?どうしたの?』


 電話の向こうの彼女の声は、こちらの心配など関係なしに、生き生きとしていた。



 その後彼女と合流して、喫茶店でプリンを食べた。美味しそうにプリンを頬張る彼女の頭は、キャラメルのついていないプリンのような色をしていた。


 彼女が行ったのは『病院』ではなく、『美容院』だったことを後になって知った。

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頭がプリンになっちゃったから、病院に行ってくる 霜月秋旻 @shimotsuki-shusuke

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