第三話 神隠し
第3話 神隠し その一
「わたしも全部知ってるわけじゃないですが、こんな話ですね。この村には大昔から、なぜか神隠しが多いんだそうです。原因はまったくわからないんですが、お年寄りさんはそれで子どもがいなくなると、人喰い熊のせいだとか、
「それが、六花さん?」
すると、また、豊子がうつむく。
かわりに穂村が口をひらいた。
「いや、六花さんは
「贄? 生贄ですか?」
穂村は美味そうに蕎麦をすすりながら、器用に里芋の煮っころがしを頬張る。
「うん。老人たち、なかなか口を割らなかったがね。なんとか聞きだしたよ。落武者たちの仲間だった六郎は神隠しにあった。それからというもの、侍たちの霊が夜な夜な、男の子のいる家庭にやってきて、『六郎をよこせ。六郎をよこせ』と言う。自分たちを殺した六郎を恨んでいるのか、かつての仲間だから会いたいのかは知らん。とにかく、よこせという。それで村では男の子に女の子の服を着せ、武者の霊をよりつけないようにしたんだ。村から男の子が消えて、怒り狂った武者たちは、ますます暴れた。このころの神隠しの要因の一つは、武者だったろう。あまりにも子どもがいなくなるので、あわてふためいた村人たちは話しあいのすえ、村の子どもを一人、武者にさしだそうということになった。六花さんが選ばれたのは、器量がよかったこと、武者の霊がもっとも多く、この少年のもとへやってきたこと、一家が貧乏だったので、見返りの代償として息子をさしだすことを了承したこと、などのせいだ」
豊子がガックリと両手を畳についた。
かぼそい声で肯定する。
「はい……主人からは、そう聞いています。この家を建ててもらうかわりに、六花さんは六郎神社にさしだされたのだと」
このところ他人との会話を龍郎に任せっぱなしの青蘭が、珍しく口をひらく。
「でも、落武者はまだやってくる。六花を六郎だと思ってつれていったのなら、満足するはずじゃないか」
豊子は涙ぐんだ。
「そうです。六花さんは祭りの日に、たしかに神社につれていかれたんです。これで祟りはおさまると、村のみんなは喜んだそうです。でも、祟りはおさまらなかった。六花さんは神社に行ったあと、神隠しにあったみたいなんです」
だから、落武者の霊がいまだに、この家を訪れてくるわけだ。
「やっぱり、あの神社を調べてみないことにはなぁ」
龍郎は嘆息する。
生首たちが通してくれるだろうか?
考えていると、今度は神父が言いだした。
「私も神隠しの話は聞いたが、おかしくないか? 少年がいなくなるのは、おそらく落武者のせいだろう。でも、ターゲットはそれだけではないようだ。若い女性もよくいなくなるらしい。あとは、そのどちらでもない人々。その比率がちょうど三分の一ずつほど」
「つまり、村人がまんべんなく消えていくってことですか?」
龍郎がたずねると、神父は首をふった。
「いや、人口比率で言うなら、もっと老人がいなくなるはずだ。少年と女性が特別多いということは、やはり、それを目的としてさらっていく何かがいるということだろう。思うに一律で神隠しと言っているが、この村で起こる行方不明の原因は一つではないんじゃないだろうか?」
「たしかに」
神父の言うとおりだ。
行方不明者に
「午前中と同様に三組みにわかれ、それぞれのタイプにしぼって調べてみてはどうだろう?」
「つまり、少年がいなくなる神隠し。これはたぶん、落武者のせいなので、それについて調べる。あとは、女性がいなくなる神隠しと、その他の人たちがいなくなる神隠しの要因を調べる——ってことですね?」
神父はうなずいた。
「誰が何を調べるかで、調査の
龍郎は自分たちが見てきた神社のようすを語った。
「あの生首たちが邪魔をして、おれたちは境内のなかを調べることができなかったんです。六郎伝説については、あそこを調べるのが手っ取り早いと思うんですが」
「では、午後は私がそこへ行ってみよう」と、神父が応えた。
となると、あとは若い女性失踪事件か、その他大勢失踪事件かだ。
どっちにしようかと思案しているあいだに、穂村が先手をとった。
「神隠しに関係があるのかどうかわからないんだが、
龍郎は首をひねった。
「と言うと、おれと青蘭は人喰い熊について調べてこいってことですか?」
「そうなるね」と、神父。
「どこから手をつければ?」
「村の猟師とか?」
「でも、最近の話じゃないんですよね?」
すると、穂村が口を挟んだ。
「本柳くん。犠牲者の名前を住職に聞いてみればいい。それに昔話に詳しいというなら、熊についても詳しいかもしれない」
「わかりました。じゃあ、住職に話を聞くところまでは同行しましょう」
そんなわけで、龍郎たちはふたたび村へと出ていった。
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