第32話 『眠れない夜』

B夫さんは

眠れない。


毎晩のように

見知らぬ少年が室内を走り回るからだ。


体を横たえ

ウトウトとすると


どこからともなく少年は現れて


せまい部屋をグルグルと駆け回る。


だが不思議なことに

少年の胸から上はぼやけていて

どんな顔をしているのか

さっぱりわからない。


はじめは怖かったが

眠れない夜が10日以上も続くと


さすがにストレスがたまってくる。



ある夜、

また少年が現れ室内を走り回ると、


怖さよりも

イラ立ちが勝って


「いいかげんにしろッ!

 うるせぇんだよッ!」


思わず怒鳴ってしまった。


その怒声に

少年はピタリと立ち止まり、


ゆっくり

ゆっくり


こちらをふり返る。


すると

なぜか今まで見えなかった

少年の顔がハッキリ見えたのだ。


あらわになった

その顔を見たとき


B夫さんは

驚いた。


それは


まぎれもなく

幼いころの

自分の顔だったのだ。


少年は

とても悲しそうな顔で


じっとこちらを見ている。


急に

心が壊れそうになったB夫さんは

あわてて部屋を飛び出した。


そして

そのまま仕事をやめ、


全てを投げ捨てて田舎に逃げ帰った。


それ以降

少年はもう

姿を現さなくなった。



B夫さんはずっと


オレオレ詐欺のグループに入って

老人たちをだましていたのだという……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る