第21話 『大漁の夜』

近所の河で

夜釣りをしていると


なぜかその日は

ふだんよりも大漁だった。


うれしくて

ひとりはしゃいでいると


10メートルほど離れた土手の上に


カップルが

寄りそって座っているのに気づいた。


ふたりの雰囲気を壊しては悪いかな、

と思いつつ


やはり喜びはかくせない。



翌日

魚たちを冷蔵庫から出して調理し、

食卓にならべていると


「ねぇ、

 これってさ

 あの河じゃないの?」


妻がテレビのニュース番組を

指さして言う。


見ればあの河で

男女の水死体が発見された、

と伝えている。


ふたりはきつく抱き合うように

たがいの体を

ロープで縛りつけてあったという。


身元の分かっていないふたりの遺体は

腐敗がかなり進んでおり


数日前には心中していただろう

と推測されている。


昨日、


なぜ大漁だったのか

わかってしまった。


吐き気をおぼえ、


全ての魚料理を

ゴミ袋の中に叩き捨てた。


ただひとつ。


…ただひとつ

不思議だったのは、


テレビに映し出されたふたりの、

唯一の手がかりである衣服と


土手の上で抱き合っていた

カップルの服装が


まったく同じ

だったことである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る