第9話 『海幽霊』

お盆のころの話しだ。


友人数人と

ひと気のない海に行った。


海水浴を楽しんだ

夕方ちかく、


海からあがろうと

海岸へ向かって泳いでいると


いきなりなにかに足をつかまれ

海中に引きずり込まれた。


助けを呼ぼうにも

水に沈みこんだままで


口の中に

海水が入って声が出ない。


友人たちは

すでに海からあがっていて

こちらに気づいていないようだ。


きっと水死した霊が

自分を襲って来ているんだ、

とあわてた。


まず

足首をつかむ手をなんとかしようと


思い切って水中で目を開けた。


するとそこには


スキューバ―・ダイビング

をしている人たちが

何人もいた。


ゴーグルの中の目は

こちらを見ながらいやらしく笑っている。


霊などではなかった。


生きた人間だったのだ。


「こ、殺されるッ!」


直感でそう思ったとき


溺れているのに気づいた友人たちが

海に飛び込んできた。


それと同時に

スキューバの連中は

逃げて行ったのだが、


海からあがっても

震えが止まらなかった。



海で水死する人の何割かは


こうした殺人に

あっているのかも

しれない。

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