第8話 『自殺どろぼう』
A子さんは
人生に疲れ、
自分を終わらせようと
自殺の名所に向かった。
そこは
さびれた大きな橋。
はるか下に流れる
暗い川を見つめ
身を投げようと
覚悟を決めた瞬間、
視界のはしで
なにかが動いた。
おどろいて
そちらを見ると、
ワンピース姿の女が
数メートル先で
勢いよく
川へ飛び込んだのだ。
A子さんは
腰を抜かしながら
あわてて通報し
その日は
自殺することをあきらめた。
後日、
今度は山へ向かった。
人の来ない山奥ならば
邪魔されないはずだ、と
ロープをかける
木を探して歩いた。
すると
「おい。
おほーい」
という声が聞こえ、
茂みの中から
薄ら笑いを浮かべた
中年の男が現れた。
「な。死ぬの?
死ぬんだろ、な?」
こちらに向かって
歩いてくる。
「じゃ。
んじゃあさ、
一発、やらせて?
一発だけやらせてよぅ」
男はよだれを垂らしている。
「ダメでもいいよぅ。
アンタが死ねば
どうせ、あとは
自由にできるしねぇ。
ウシャシャシャシャ」
その気持ち悪さに
A子さんは悲鳴をあげ
全力で逃げた。
ふもとのバス停に座り
呼吸を整えているとき、
そういえばあの男、
首からロープを
ぶら下げていたなぁ
と思い出した。
やはり、
確実な方法がいいと
A子さんは
踏切に向かった。
線路の前に立ったとき
反対側に
うつむいたままの
男がいるのに気づいた。
「ま、まさか」
嫌な予感がする。
遮断機が下り
電車がきた瞬間、
警笛を鳴らす間もなく
男が線路に進入したのだ。
ズドバんッ!
すさまじい音と共に
A子さんは
顔面を殴られた。
「何ッ?
何でッ?」
尻もちをついた
A子さんは
わけがわからない。
だが、
足もとにあった物を見て
すべて理解した。
右手。
バラバラになった
男の右手が
A子さんの
顔面に直撃したのだ。
「…いやぁ、
あのときは泣きましたよ、
コワすぎて」
A子さんはそれ以来、
死ぬことを
考えなくなったという。
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