純真なマチウ4[覚醒篇]
松枝蔵人
前巻までのあらすじ
純真なマチウ 1[胎動篇]あらすじ
◎ 純真なマチウ1[胎動篇]
遥かな未来――
地上をぶあつくおおい尽くした紫色の猛毒のガスによって、高度に構築された文明社会はもろくも崩壊した。かろうじて高地に逃れた人々は、豊かさや数々の利便性を失って後退した世界に生きている。彼らは孤絶したその土地を『大陸』と呼んだ。
限られた領土や富を奪い合い、中世さながらの生活を送っていた人々の前に、突如『スピリチュアル』と称する〝新人類〟が出現する。彼らは人工授精によって誕生し、優れた体格と容姿に恵まれて人並み外れた能力を誇り、〝旧人類〟を『フィジカル』と蔑んで圧倒した。
しかし、スピリチュアルの『帝国』が高性能な武器・兵器を使いつくしてしまうと戦いは膠着し、フィジカルの諸勢力はふたたび互いに抗争をくり返すばかりだった。そのような情勢の元でまた数百年が経過する。
そこに転機をもたらしたのは、後に『勇将皇帝』と呼ばれることになる若きスピリチュアル軍人・オルダインが皇帝に推戴されたことだった。オルダインに率いられた帝国軍は、十数年にわたって激しい攻勢をくり広げ、ついに大陸全土の平定に成功する。
制覇を記念する式典が最後の激戦地となった交易都市キールで盛大に挙行される直前、一人の娘がすべてのスピリチュアルの出生の地である地底のらせん都市ブランカから脱走しようとしていた。スピリチュアルの誕生をつかさどる寮母と皇帝オルダイン夫妻のひとり娘カナリエルである。
寮母マザー・ミランディアは「自由になりたい」と願う娘の望みを聞き入れ、男子禁制の『生命回廊』から幼体の葬送を偽装して密かにカナリエルを送り出す。彼女を護衛するのは、誕生前の幼体が入ったカプセルを背負うフィジカルの傭兵ゴドフロアだった。
ゴドフロアは、最初に異変に気づいた警備隊長ファロンらを倒し、さらに差し向けられた一個小隊を断崖での空中戦の末に全滅させる。
最初の危機をなんとか協力して切り抜けた二人は、断崖の途中の洞窟でようやく平穏な一夜を明かす。カナリエルは、生まれてくる子どもが〝刷り込み〟という方法で家族を結びつけることや、相手に触れることで精神感応することなど、スピリチュアルの驚くべき生態をゴドフロアに打ち明ける。互いの生まれや境遇のあまりのへだたりに戸惑いながらも徐々に信頼を寄せ合うようになる。
カナリエルを追うのは、奇しくもキール入城式典と同日に結婚式を挙げるはずだった婚約者ロッシュである。ブランカを統括する保安部長官クレギオンは、戦勝気分で盛り上がるブランカに寮母と皇帝の娘の失踪が暗い影を落とすことを恐れ、ロッシュに密かに特別編成の追跡隊を組織することを許す。
ロッシュは、下層階級の出身ながらスピリチュアルの理想像を変えるとまで言われたほどの優れた身体能力と人並外れた頭脳と容姿を持ち、カナリエルとはだれもがうらやむカップルだった。カナリエルに裏切られたとはどうしても信じられず、追跡隊の面々には彼女を引き留めるために全力を尽くすことを誓う。
戦場で一人の犠牲も出さずに数々の戦功を挙げたロッシュだけあって、ブランカ中から選りすぐった若手のエリート軍人たちを率い、慎重かつ的確な指揮ぶりでカナリエルたちを追いつめていく。
だが、マザー・ミランディアが案内人として雇った隊商の若者ステファンと合流した二人は、ロッシュと知恵くらべするようなゴドフロアのしたたかな機転やカナリエルの思い切った行動もあって、何度もあわやの危機に遭遇しながらもロッシュの動揺を誘い、それにつけ込んで厳しい追跡を振り切って逃走する。
ロッシュはやむなく親友のエルンファードに追跡の続行を託し、数人の兵士とともにブランカへの帰途につく。同道するライバルたちの中には、ロッシュを手厳しく批判する者もいれば意外にも高く評価する者もいた。ロッシュは黙ってそれに耳を傾けながら、初めて味わう任務の失敗をかみしめることになった……。
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