雨の日の話
神崎玲央
雨の日の話
雨の日に透けるのは薄手のブラウスと下心。
本気じゃないよと告げた俺にそれでも良いのと君は笑った。
張り付いたシャツ越しに淡い青と肌色がのぞく。
その目を伏せながら君はゆっくりと赤いリボンを外した。しゅるり、布と布の擦れる音が雨音のみが鳴る静かな教室に響いた。
そのまま君は手を下降させボタンへと指を伸ばす。その指が小さく、震えていることに気がついて俺はその君の手に優しく触れた。
左手に小さな手を握りながら、右手で第二ボタンを外す。その一つ下のボタンへと指をかけながら怖い?と投げかけた俺の言葉に君はその黒髪を左右に揺らして
「嬉しくて、泣いちゃいそう」
肌色をのぞかすその隙間からするりと手を滑り込ませて君の柔肌に、触れる。決して大きくはないけれど確かなその膨らみに
「ん」
と君の唇から声が漏れた。
「…嬉しい」
ずっとこうなることを夢に見ていたからと君の頬に赤が広がる。
ねぇ、と小さく俺の鼓膜を揺らした声に応えるようにして俺はその唇を優しく塞ぐ。
「…好き」
好きだよと響いたその言葉に俺は
「……っ、ん」
ぎゅっと握った手に強く指を絡ませながら、もう一度その唇を塞いだ。
手の平で覆っている膨らみの先端にそっと優しく指を添えるとぴくりとその身体が揺れた。ちゅ、ちゅっと音を響かせながら君の呼吸を乱すように長い口付けと短い口付けを繰り返していく。その輪郭をなぞるように歯茎に沿って舌を動かすとんっ、と小さな声が聞こえた。ごくり、と響いたその音に一度その唇を解放すると俺と君の間に透明な橋がかかった。
すうっと深く息を吸いながら
「好き」
好きなのと蒸気した頬で君は言う。そして
「…ごめんなさい」
好きになってごめんなさいと君はその眉を、下げた。少しずつ潤んでいくその瞳に思わず強く手を握りながら、言葉を紡ごうとしたその瞬間。ぱたぱたと廊下を走る音が聞こえてきて
「…あれ?」
なんて言葉と同時に勢いよく扉が開かれた。
「こんな時間になにしてるのー?」
「それは俺の台詞だろ」
もう下校時間だぞと告げた俺に少女はちろり、赤い舌をのぞかせて
「忘れ物しちゃってさ」
とまっすぐ自分の席へと向かう。
「明日の英訳、私が当たる番だったのをすっかり忘れちゃってて」
慌てて取りに来たんだよと少女は机から教科書を取り出してあったあったと口にする。
「置き勉もほどほどにな」
俺のそんな言葉に少女ははーいと笑顔で声を返すと
「それじゃあ先生また明日ね」
そう言って教室を後にした。
廊下に響くその足音に耳を傾けながら、教卓の下からのぞく白い脚へと目を向ける。
「もう、行った?」
と投げかけられたその声にああと俺は返しながら
「…ごめんな」
と小さく声にする。
悪い大人でごめんなとそう呟いた俺に
「え?」
今何か言った?とそんな声がした。
「……いや」
なんでもないと声にして俺は窓の外へと目を向ける。雨は、すっかり上がっていた。
雨の日の話 神崎玲央 @reo_kannzaki
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