張り込み

張り込み

おや？　あんたはいったい誰だい？

………………なに？　お前こそ一体誰だって？

俺の名はアール。

芸能人のスキャンダルを暴く、芸能記者を仕事としている。

俺は今現在、とある俳優の自宅前に張り込んでいる最中だ。

中ではその大物俳優と、私が前から目星をつけていた人気アナウンサーがこっそりと密会を行っている。

これは我が社だけが掴んだ特ダネである為、周りにライバル記者は一人もいない。

このチャンス、必ずものにしてやる。

だが、なかなか二人は中から出てはこない。

もう張り込んで5時間は経過している。

とにかく暇なんだ。

あ、そうだ。　

俺の話に今から付き合ってくれよ。

張り込む間どうしても暇で暇で仕方がないんだよ。

どうせ今日はここから動けねぇしさ。

だが暇だからと言って携帯や本を見るわけにはいかない。

視線は常に密会が行われているマンションの入り口に向けておかないとな。

だから話をする事くらいが俺に今出来る最大の暇潰しなんだよ。

だから聞いてくれ。

……最近さ、世の中かなり変化したよな。

犯罪もかなり減った。　平和になったんだ。

それに伴い、再犯率もかなり減った。

それは何故か？

お前さんもご存知の通り、あの万歩計システムが導入されたからなのさ。

…………なに？　万歩計システムを知らない？

おいおい、驚いたな。

そんな田舎者がいたとは。

仕方がない、教えてやるよ。

万歩計システムというのはな、政府が決めた再犯率を減らすための新たな政策なのさ。

何か犯罪をやらかしてしまった奴が刑務所を出る時、そいつには足にとある装置が取り付けられる。

それがいわゆる万歩計さ。

でももちろん普通の万歩計とは違う。

その万歩計は、装置を装着している持ち主の歩数が定められた一定数を超えた場合、特別な電力を流して足を痺れさせるんだ。

まぁ、つまり一定時間の間歩けなくさせるんだよ。

……なに？　そんな事で再犯率が減るのかって？

フフ、それが減るんだよ。

1日の歩数が制限されているんだぜ？

もし、装着してる奴が再犯罪を犯している最中だとして、歩数が限界にまで達してみろ。

現場から逃走できなくなるじゃねぇか。

そんなリスクが装着者には常に付き纏っている。

だからつけてるやつはみんな再犯罪をしないんだよ。

……ハハ、面白い事を政府は考えたよな。

その装置は10年経たねえと外す事ができねえ。

だからその頃になると、みんなとっくに改心しちまってるのさ。

…………なに？　どうして俺がそんなに詳しいかって？

ハハハ、ようやく分かったか？

俺がこの手の張り込みに、めっぽう強い理由がよ。