第68話 『ライジング・サン・シャイニー』

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『我が召喚に応えよ世界! 我は運命すらねじ伏せる者なり!』

『ここに開け、世界の扉よ! オープン・ザ・ゲート! アルティメット・サモン!』


 もう何度目か分からない究極転移呪文の詠唱を終えた俺は、ついに疲労感で両ひざに手をついてしまった。


「ハァハァ……、ハァハァ……」


 息が上がり、声がかすれてしまっている。

 ハァハァ言うだけで、引きつった痛みとともに血の味が口の中に不快感を与えてくる。


(くそっ、だいぶバテてきたな……社会人になってから10年、ずっと運動不足だったにしても、体力落ちすぎだろ俺……マジで成人病予備軍まっしぐらじゃねえか……でも! それでも!)


 俺は膝から手を離し、顔を上げ、腹に力を入れて上体を起こす。


(それでも諦めてなるものかよ! まだ行ける! もう一度! もう一度トライだ! いつやるか? 今だろ! 根性見せろよ遊佐トール!)


 俺は目をつぶって少しだけ呼吸を整えると、大きく息を吸い込んだ。

 そしてもう一度の究極転移呪文の詠唱を始めた――始めようとした。


 その瞬間だった。


 ドクン、と。


 俺の中で何かが強烈に脈打ったような感覚があったのは――。


 そして、


「魔法陣が動いて、光っています――!」


 驚愕に満ちた中野さんのつぶやきが俺の耳へと届けられたのは――!!


 慌てて目を開けると。

 模造紙に描かれていた魔法陣が、紙から浮き出るようにわずかに高い位置に浮かび上がり、ゆっくりと回転しながら黄金の色の光を放ち始めていた。


「すごい、黄金の魔法陣だ……」


 自分がやったことながら実のところ初めて見るその光景に、俺は口をポカンと開けて見とれてしまう。

 それほどまでに幻想的な光景だった。


「これは……! ええ、間違いありませんわ! これはわたくしがかつてこの世界に召喚された時と同じ、異なる空間が繋がって召喚が行われる際に発する黄金光『ライジング・サン・シャイニー』ですわ!」


 ヒナギクさんが両手で口を抑えながら、驚きの声をあげながらも丁寧な解説をしてくれる。

 さすが国家公務員、やることなすことそつがない。


 そんな間にも魔法陣の回転はどんどんと速くなっていき。

 それと同時に黄金色の光『ライジング・サン・シャイニー』はもはや総合指令室を埋め尽くすほどに眩く輝き、眩しさで目を開けていられない程に膨れ上がっていた。


 そして、そして――!!


「トールは本当に凄いです……こうやってまた、わたしを召喚してみせちゃうんですから……」


 黄金色の光の中心から、エリカの声が聞こえてきたんだ。

 俺がどうしても聞きたかったエリカの声が、聞こえてきたんだ――!


 エリカは光の中から飛び出すと、勢いそのままに俺に思いっきり抱き着いてきた。


 そのまま俺はエリカにギュッと力いっぱいに抱きしめられて。

 俺もそんなエリカをギュッと力強く抱きしめ返す。


 ヘルメットを外しているし最新の軽量タイプとはいえ、宇宙服は結構ごわごわしていて正直抱き心地はあんまりよくない。


 でもそんなことはちっとも関係なかった。


 俺の腕の中にエリカがいる。

 その事実だけで、俺にはもう充分すぎるほどに充分だったのだから――!


「エリカ……戻ってきたんだな」


「はい、トールが呼び戻してくれましたから……全部全部トールのおかげです、本当にありがとうございました」


 俺の腕に抱かれたエリカが、俺を見上げた。


 涙で目元が滲んでいているけど、もちろん悲しくて泣いているわけじゃなくて。

 その表情は文句なしに最高の笑顔をしていた。


 作り笑いなんかじゃない、それはエリカがいつも俺に見せていた夏の向日葵ヒマワリのような、明るくて力強くて最高に魅力的な笑顔だったんだ――!

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