第66話 本当の気持ち

「うん、なんだ?」


 そんなエリカに、俺は穏やかな声でそっと先を促してあげる。


「そんなの当然じゃないですか……わたしだってもっと生きたいです。トールと一緒にいたいです……トールと一緒に、この世界のことをもっと知りたいです」


「うん」


「でもトールに悲しい顔をさせたくなくて……だから必死に笑顔を作って……トールに笑顔でサヨナラできるようにって……トールの心が傷つかないようにって……そう思ったんです……」


「だよな、知ってた。エリカは優しい女の子だもん。俺が後悔しないようにって最後の最後までずっと気を使ってくれてたんだよな。やれやれ、やっぱり俺の思ったとおりだ」


「嘘をついちゃってごめんなさい……」


「なんでエリカが謝るんだよ? いつものエリカなら『トールのためにやったんですから感謝してくださいね』とかなんとか言ってくる場面だろ?」


「ちょ、あのですね、トール。さすがのわたしもそこまでは言わないと思うんですけど。あとわたしの真似、下手すぎです。論外です」


 エリカがむくれた顔を見せる。

 でもそれはさっきまでの作り物の笑顔とは全然違った、とっても魅力な表情で――!


「だったら話は早いな。俺はもう覚悟を決めたぞ」


「覚悟……ですか?」


「ああそうさ。なにがなんでもエリカを救うっていう覚悟を、俺はもう決めたから! 俺は最後まで絶対に諦めない――いいや違うな。最後なんてもんを、こんなところでエリカに迎えさせたりはしない!」


「気持ちは嬉しいですけど、そんなことはできるはずが――」


「できるはずとか関係ない、やるんだよ! ってわけでそこで黙って俺の活躍を見ててくれ。なにせ俺って奴は異世界を救った勇者なんだろ? 勇者の力を舐めんなよ?」


 そうさ、見てやがれってなもんだ。


 さぁ行くぞ!

 俺は今から30年ちょいの人生で初めて!


 俺の全てを、全身全霊を賭して!

 この事態の打開に挑む!


 異世界を救った勇者トールの本気を見せてやる!


 まずは探せ、探すんだ!

 俺にできることを!


 エリカを助ける手段を!


 なんでもいい!

 この状況を打破するための何かを、わずかの可能性でもいいから見つけるんだ!


 死ぬ気で探せ、遊佐トール!


「俺にできること俺にできること俺にできること。なにか、なにか、なにかなにかなにかなにか――!」


 異世界からエリカを召喚した以外はからっきしの30過ぎ童貞だって、死ぬ気で考えればなにか考え付くはず――。


「……ん?」


 異世界からエリカを召喚した……?


「あった……」


「え?」


「そうだよ、あったじゃないか! エリカを救う方法があったじゃないか!!」


 俺にしかできないことが!

 たった1つの俺の秀でたスキルがあったじゃないか!


「――いけるかもしれない」

「トール?」


「俺のこの力ならエリカを救えるかもしれない!」


 俺は部屋のすみっこに丸めて立てかけてあった模造紙を急いで取りに行くと、バサッと床に広げた。

 説明するまでもない。

 さっき魔法陣を描いた模造紙だ。

 

「中野さん、模造紙が丸まらないように四隅になにか重しになる物を置いてくれないか」


「それは構いませんけど。ですが教祖様、いったい何をするつもりなんですか?」

 中野さんの問いかけに、俺は胸を張って答えた。


「今からエリカをこの場に召喚する」


「エリカさんを召喚!?」


「なにせ異世界からだってエリカを召喚できたんだぜ? 遠い宇宙っていってもしょせんは同じ世界だろ? だったら俺がエリカを召喚できないはずはない!」


 総合司令塔に、俺のキリリとした決意に満ちた声が響き渡った。


 そう。

 これが俺にできることであり。

 そして俺にしかできないことだ――!


「絶対にエリカを死なせたりするもんか! 見てろよ運命! 俺の大切なエリカを死なせようなんて馬鹿げたことをやろうってんなら! 今から俺がテメェをギッタギタにねじ伏せてやるからよ――!」

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