勤め先が倒産して無職になった30過ぎ童貞、朝5時にピンポン連打する異世界押しかけ妻により、実は異世界を救った勇者だったことが発覚する。「ところで君、誰・・・?」「だから妻ですよ♪」
第65話 俺の心の真ん真ん中が叫んでいるんだよ!
第65話 俺の心の真ん真ん中が叫んでいるんだよ!
「おいおい、あんまり俺のことを馬鹿にするなよな?」
「むむっ、なんですその言い方は。さてはトール、わたしの愛を試そうとしていますね? わたしがトールを馬鹿になんてするわけがないじゃないですか」
「いいやしてるさ。あと、そんな風にオチャラケて誤魔化そうったって無駄だからな」
「別にわたしは誤魔化そうとなんて――」
エリカが最後まで言いきる前に、俺は言葉を被せるように口を開いた。
もう嘘は聞きたくなかったから。
俺を思うがゆえの優しい嘘を、もうこれ以上エリカに語らせたくなかったから。
「あのな、出会ってからずっと、俺がどれだけエリカに振り回されてきたと思ってるんだ。童貞のピュアな心を散々からかわれて、いいように弄ばれてきたんだぞ?」
「あの、こんな時にディスるのはさすがにやめて欲しいんですけど……」
「ディスってなんかいねーよ、褒めてんだよ」
「ええっ!? どこがですか!?」
中野さんが思わず口を挟んじゃったって感じで言った驚き声が聞こえたんだけど、とりあえずそれは今は置いといてだ。
「俺はあれだけエリカの本気の笑顔を見せられてきたんだ。そんな俺が、今のエリカの見てくれだけは完璧な笑顔が、本心を隠すためのニセモノの笑顔だって分からなはずがないだろうが」
「なんですかそれ……そんなのただのトールの主観じゃないですか……」
「そうだ。徹頭徹尾、パーフェクトに俺の主観だよ」
「だったら――」
「でもな、エリカが俺に見せてきた笑顔は! そんな風に綺麗に整えただけの作り笑いじゃなかったって、俺の心の真ん真ん中が叫んでいるんだよ!」
「――っ」
「エリカの笑顔はもっと力強くて! 楽しさとか喜びがこれでもかってくらいに溢れ出るような! いつも俺の心を強く強く震わせてやまない、それはもう魅力的すぎる笑顔だったんだ!」
「……」
「でも今のエリカの笑顔は単に綺麗なだけで、てんで魅力がない。今まで俺が見せられてきた本当の笑顔と比べたら全然論外、話にもならないな」
「そんな……ことは……」
「そんな話にもならないニセモノの笑顔で俺を騙せると思ってるんだとしたら、俺を馬鹿にしてる以外になんて言えばいいんだよ?」
「そんな……ことは……わたし……だって……」
「エリカ、いい加減に本当のことを言えよ? 俺はエリカの本当の心が知りたいだけなんだから」
「わたし……は……」
「もし俺のことを思って嘘をつこうとしてるのならさ、そういうのはもうやめて欲しいんだ。むしろ本心を隠されたことの方が傷つく」
「わたし……トール……傷つけたく……から……だって……」
「なぁエリカ、俺はエリカの今の本当の気持ちを知りたいんだ。これが最後だって言うんなら、作り物じゃない嘘偽りないエリカの笑顔を。ずっと俺に見せてくれた素敵な笑顔を見せてくれよ? 例えばこれをプレゼントしてくれた時みたいにさ」
言いながら俺はスマホを取り出すと、そこについているペアモル(ペアモルモットの略、エリカ命名)の片割れをエリカに見せる。
くら寿司のビッくらポン!でダブってしまった。
だけど2人で仲良くペアモルしたプイプイなモルモットのマスコットチェーンだ。
「……それ、持っててくれたんですね」
「ペアモルなんだから当然だろ? それにこれは俺が女の子から初めてもらったプレゼントだからな。棺桶まで持って行きたいくらいにとても大切な宝物なんだ」
「そういえばそんなことを言っていましたね」
苦笑しながらエリカも宇宙服のポケットからペアモルを取り出した。
「エリカこそ宇宙にまで持って行ってたのかよ」
「それはもちろんペアモルですから当然です」
俺とエリカ。
そして地球と宇宙の2つのペアモルが、モニター越しに見つめ合う。
「なぁエリカ、最後にもう一度だけ言うぞ。でもこれが最後だ。もうこれ以上は聞かない」
「……はい」
「エリカ、俺にお前の本心を聞かせてくれないか?」
俺はそれだけ伝えると、モニター越しにエリカを優しく見つめながら押し黙った。
もう俺が言うことは何もないから。
俺が言いたいことはもう全部言ったから。
後はエリカ次第だから。
だからもう、俺が言うことなんてこれっぽっちもないんだ。
「…………」
俺は微笑みながら黙ったままで、
「…………」
そしてエリカも言葉を発しない。
ただただ沈黙が世界が支配していた。
磁場の影響によるモニター画像の乱れが少しずつ大きくなり始め、ザザッという耳障りな雑音も入り始める。
通信が完全に途絶えるまでそう長くはなさそうだ。
それでも俺はじっと優しくエリカを見つめたままで、口を開きはしなかった。
エリカの答えを、俺はただただひたすらに待ち続ける。
そんな沈黙を打ち破ったのは、
「……んなの」
蚊の鳴くようなエリカの呟き声だった。
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