第51話 『異世界主人公における運命交差理論』

「え、そうなの?」


「日本国内ですと与党の幹事長や、大手自動車メーカーの社長、東京五輪金メダリストに人気ユーチューバーも現役のメンバーですわよ。異世界召喚には、彼らトップエリートをも駆り立ててやまない大きな魅力があるのでしょうね」


「すごいじゃないですかトール。これからはそんな偉い人たちがトールにかしずくんですよ。日本を裏から牛耳ってやりましょう!」


 エリカがどこまで本気なのか、そんなアホなことを言って口を挟んでくる。


「牛耳らないから。俺はごくごく普通の善良な一般市民だから」


「トールは欲がないですねぇ。世界征服とかもできそうですのに。でもそういう控えめなところも素敵だと思います♪」


「あはは、ありがとエリカ」


「そういうわけなので環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』は全然怪しくなんてないんですよ」


 ここまでの話をまとめるように中野さんが言った。


「とりあえず各界の名だたる名士や権力者までたくさん在籍している組織だってのは分かったよ」


 現役女子大生・人気アイドル声優もメンバーだしな。

 アニオタ的にはぶっちゃけそれが一番納得がいきます!


「ちなみにですが中野さんは今回の教祖様発見の件を高く評価され、最高幹部への推薦とともに、サモンネームが送られることが緊急幹部会議にて決定しております」


 ついでに補足するようにリーダー格の男が言った。


「私もサモンネームを貰えるんですか!? しかも最高幹部だなんて!」


「もちろんですとも、これからは良き指導者として教団を引っ張っていってください。期待していますよ」


「ありがとうございます、期待に応えられるようにがんばります!」


「サモンネームって、そんなに欲しいものなんだね……」


「それはそうですよ、幹部しかつけることが許されない特別な名前なんですから」


「あ、うん、そうみたいだね……よかったね、貰えて」


「でもまさかですよね。私の隣の部屋に、異世界召喚を行う人物が住んでいるなんて思ってもみませんでした」


「俺からしてもそうだよ。なんで俺の隣の部屋にたまたま偶然メンバーがいるんだよ。天文学的な確率だろ? こんな展開をアニメやラノベでやったら、ご都合主義とか言われて脚本家や作者はフルボッコに批判されるぞ?」


 そんな俺の疑問に答えてくれたのはやはりエリカだった。


「これはいわゆる『異世界主人公における運命交差理論』ですね」


「『異世界主人公における運命交差理論』? なんだそりゃ?」


「異世界絡みの人間や事柄、事象が全て、その根幹たる異世界召喚者のトールに引き寄せられるように集まってくるという理論です。ある種の主人公補正の1つとでも思っていただければと」


「主人公ってのがつまり俺ってこと?」


「そういうことです。年がら年中それこそ毎日のように殺人事件に遭遇しまくる見た目は子供・頭脳は大人な名探偵のように、大小さまざまな異世界絡みの案件が、主人公であるトールの周りで立て続けに発生したんです」


「その例えだと、まるでこれから先もこういう事件が次々と起こるって言われてるみたいなんだけど……」


「その可能性は決して低くはないでしょうね」


「確率的にありなのか?」


「この状況においては一般的な確率論はなんら意味を持ちえません。もはや世界はトールを中心に動いていると認識してください」


「なんとなく言いたいことは分からなくもない、いかにもそれっぽい理論だけど……そうか、これからもこういう事件が起こっちゃう可能性が高いのか……」


 もう俺は普通の生活は送れないのかなぁ。


「及ばずながらわたしがトールの手助けを致しますので、何があっても一緒に乗り越えて生きましょう。そのためにわたしはトールのお側にいるんですから」


「エリカ……ありがとうな」


 エリカの献身的な言葉に俺は心の中が温かい気持ちでいっぱいになるのを感じていた。

 これが人の優しさってやつか。


「わたくしもですわ。わたくしども法務省、ひいては日本政府はトールさんとエリカさんに最大限のバックアップをするとお約束いたしましょう」


「ヒナギクさんもありがとう。心強いよ」


「でしたら我々、環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』も教祖様の手足となって働きましょう」


 教団リーダーの男が言った。


「いやあの俺は教祖になるつもりは――」


「当面は現状維持で構いません。ひとまずは我々の存在を教祖様に知っていただいただけでも充分ですから」


「そ、そう?」


「それと中野を教祖様のお側に置いておきます。連絡がある時は彼女を使ってください」


「よろしくお願いしますね、教祖様。そういうわけなので、連絡先を交換しましょう。ラインやってますよね?」


「あ、うん。やってるけど」


 スマホを差し出されたので、俺もスマホを取り出す。


「じゃあはい……これで無事に友だちに追加完了です。後で電話番号とメアドも送っておきますね」


「あ、ありがとう」


「いえいえどういたしまして。もし困ったことがあったら何でも言ってくださいね。教団の者に話を通しますので。さっきも言いましたけど、環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』には政財界の実力者も多いので、それなり以上に力になれると思いますよ」


 おおっ?

 なんだか話の流れで現役女子大生・人気アイドル声優の中野明菜の連絡先までゲットしてしまったぞ!?


「でもとりあえずこれで話は綺麗にまとまったのかな……?」


 多分そういうことでいいんだと思う。

 ごめんよく分からない。


 とりあえず30代無職童貞への突然の拉致未遂事件に関しては、無事に解決しました。


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