第50話 現役女子大生・人気アイドル声優
「だって男だったらそういうこと一瞬ちらっとくらいは考えちゃいますよね? 教祖命令で一回り以上離れた若い女の子にエッチな命令してやるぜとか、思いますよね? これもう生物としての本能ですよね?」
「考えねぇよ。どこの陵辱学園ものエロゲの用務員のおっさんだよ。不評被害も甚だしいぞ。人気アイドル声優と知り合いになれて、アニオタとして純粋に喜んでたんだよ」
そう言った俺の目を、しかし見定めるように覗き込んでくるエリカ。
「じぃ……っ」
「な、なんだよ……」
「じぃ……っ」
「ほ、ほんとだからな?」
「……どうやら嘘は言っていないようですね。さすがはトールです♪ 男の中の男ですね。またいっそう愛が深まってしまいました」
とりあえずエリカは納得してくれたようだった。
人気アイドル声優をお話しできたことを喜ぶ俺の、嘘偽りのない銀水晶のようなピュアな心を感じ取ってくれたのだろう。
でもそうか。
俺は教祖で、現役女子大生・人気アイドル声優の中野明菜が俺の信者なのか……。
い、いや他意はないよ?
これはただの事実確認なんだからねっ!
勘違いしないでよねっ!
俺は職質歴3回(そのうち1回は昼間の公園で弁当を食べていたら職質された、ひどい……)の善良な一般市民なんだからっ!
「でもそっか、だからか。現役女子大生・人気アイドル声優だから、顔バレしないようにマスクとか眼鏡とか髪で顔を隠して、声でもバレないように話さなかったってことなんだな」
「昨日までは異世界召喚を行う教祖様であると知らなかったとはいえ、挨拶をしてくれたのに、ろくに返事もせずに申し訳ありませんでした。教祖様の部屋から私の出ているアニメをよく見ている音が漏れ聞こえていたので、バレたらまずいと思ってあのような態度を取ってしまったんです」
「そんなのいいっていいって。人気声優だもん、当然の対応だよな。隣の部屋に自分が出ているアニメを見てる30代のアニオタの男がいたらそりゃ警戒もするよ。むしろ引っ越しを考えるレベルだろ」
そこまで言って、俺はふと気になった。
「中野さんはこの怪しげな……えっと、なんだっけ?」
「トール、環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』ですよ」
現役女子大生・人気アイドル声優が俺の隣の部屋に住んでいたことが発覚してテンションが爆上がりした俺が、例の宗教団体の名前をすっかり忘れてしまったのを機敏に察してくれたエリカが、こそっと耳打ちしてくれた。
さすがエリカ、物覚えがいいだけじゃなくて気が利くところもすごくエリートです。
「中野さんも環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』のメンバーのメンバーだったってこと?」
「はい」
「人気アイドル声優が、なんでこんな怪しげな団体のメンバーになったんだ? それも異世界が好きだったから?」
その疑問は俺でなくとも抱くことだろう。
「実は異世界セクステットのスポンサー企業の1つに環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』の幹部の方がいて、私の異世界への熱意を知って特別に教えてもらったんです。まだ私はメンバーになったばかりの下っ端の下っ端ですけどね」
「話の前半と後半が繋がってるようで、ものすごい飛躍があるような気がしてならないんだが……」
俺の素直な感想はしかし、この場の全員にスルーされてしまった。
え、気になったのって俺だけ?
いくら異世界への熱意があったって、秘密結社の存在は普通は教えてもらえないよね?
だって秘密にしてるんでしょ?
「ちなみに怪しくはないですよ」
「秘密結社という時点で俺的には十分怪しいような……」
「本当に全然ちっとも怪しくなんてないんです」
「いやどう見たって怪しいでしょ、ねぇ」
俺はエリカとヒナギクさんに視線を向けたんだけど。
「環太平洋・秘密宗教結社『アトランティック・サモン』は極秘裏に活動しているだけで、極めて合法的な異世界啓蒙活動をする団体ですわ」
「あ、ああ、うん。そうなんだ……」
「メンバーの中には政財界の名だたる名士や有名な科学者や哲学者などなど、社会的地位が非常に高い方々も多くいらっしゃいますわ。きっと中野さんも人気声優という将来性を買われたのでしょう」
ヒナギクさんが真面目な顔をして、俄かには信じられないようなことを言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます