終焉を唄う狐姉妹。
夢喰バク
プロローグ
気がつくと俺は見知らぬ街の大通り——その真ん中に立っていた。
直後、目の前に広がる光景に思わず絶句する。
控えめに言って————世界が滅んでいた。
元は建物だったのか、残骸と化した瓦礫の山。
原型を留めていない肉片が視界の至る所に転がり、紅く染まった奇妙な空には分厚そうな黒い雲が広がっている。
その下を無数のカラスの群れが飛び交っていた。
「うわぁぁぁぁっ!」
俺は我に返ると同時に叫んだ。
しかし狂ったように叫ぼうと、目の前の景色が変わる事はない。
どこからも人の気配がしなかった。
あるのは無数に積み上がった瓦礫と死体の山。
「な、なんなんだよ……」
現実とは思えないような異常な光景を前にし、頭を抱えながらゆっくりと後退る。
……グチャ。
何か……右足に伝わってくるほんのりと生暖かい感触。
柔らかい果実が潰れたような感じの嫌な音がした。
「うっ……」
恐る恐る足元に視線を落とすと……死体。
片目のない男の顔があった。
肉が崩れかけ、どうにか人であった頃の形を留めている様だった。
けれど、首から下は無く、肉は殴られたアザのような濃い紫色をしている。
一瞬、光のない瞳と目が合った。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
再び叫ぶと同時に全速力で走り出した。
どこに向うのか。
そんなことを考えていられるような余裕はない。こんな狂った異常な世界じゃなければどこでも大歓迎だ。
頼む。どうか夢なら覚めてくれ。そう願いながら無我夢中で走る。
ろくに前も見ずに走っていたせいだろうか。
道端に転がっていた死体に躓いて盛大に転んだ。
「いてて……」
どうにか起き上がり、周囲を見渡す。
いつの間にか大きな神社の入り口に辿り着いていた。
「ここは……」
すると背後から声がした。
「……お兄ちゃん」
「え……?」
ぱっと振り返る。
そこにはボサボサの腰まで伸びた金髪に、古びた布切れのような白装束。
どこか儚げな少女——いや、幼女がいた。
彼女が人間ではないのだろうということは一目見ただけでわかった。
なぜならオーラが違う。気迫といった方が正しいのだろうか。
覗くことすら恐ろしいような暗い闇——光の欠片もない彼女の瞳が言葉なくそう物語っていた。
「お兄ちゃん……どうして生きているの?」
彼女は暗い瞳をじっと向け、首を傾げた。
「えっと……俺もよくわからなくて………」
心を覗かれているような感覚に陥り、不思議と彼女の瞳から目を逸らさずにはいられない。
「…………」
「…………」
数秒の静寂が流れ、幼女は無表情のまま視点を紅い空に移す。
何事もなかったかのように歩き出し、俺の横を通り過ぎる。
その時だった。
ちょうど幼女が通り過ぎた瞬間………目の前が真っ赤に染まった。
同時に、身体に激痛が走り、首から血が吹き出した。
叫ぶこともできずにその場に倒れ込む。
激痛は全身へと広がっていき、まるで猛毒に侵されているような感覚だった。
痛んだ部分の血管が裂け、赤い血が咲き乱れる。
遠のいていく意識の中、この世のものとは思えない紅く染まった奇妙な空を見上げる。
ポツリポツリ、と雨が降り出した。
「ははっ。こんな世界でも雨は透明なのか……」
異常な世界で正常なことが起きることも、また異常だった。
だがそんなことはどうだっていい。
なぜなら俺はもう死ぬのだから……成す術なく無残に死んでいった肉片たちと同じになるだけ。
そうしてゆっくりと意識を失った。
「……ん………はっ!」
目が醒めると同時に飛び起きた。
窓からは清々しい朝日が差し込んでいる。
「なんだ……」
寝癖でボサボサの頭を掻きながら夢だったのだと安堵する。
「にしても、やけにリアルな夢だったな」
大きなあくびをしながらベッドを出ようとする、が。
体がやけに重い。太い鎖を体に巻きつけているようだ。
それになんだか腰あたりに柔らかい感触が……。
「うわっ!」
目線を下にやると思わず二度見してしまうほどの美少女が俺に抱きつきながら寝ていた。
全裸で。
うにゃうにゃと気持ち良さそうに眠っている美少女が——二人も。
全裸で!ダブル全裸‼︎
暖かい素肌に挟まれながら俺の眠気は一瞬にして吹き飛んでいった。
なぜ、この俺——柏木奏太が全裸の美少女と同じベッドで一夜を共にしていたのか。
事の発端は一日前まで遡る。
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