一等星<アストロ>が飛び交う叡智光蓄器<カンテラ> ━━OrigiN━━
嘉久見 嶺志
第一部 ━━ 序章 ━━
━━moment━━
――ここは、どこだ?
天井には、埃まみれのシャンデリア。
辺りは薄暗く、見慣れないアンティーク調の長いテーブルと7つの椅子。
それらだけは、異様に小綺麗で、卓上には何も置かれていなかった。
他に家具や置物はなく、殺風景な空間。
それを囲むのは、7つの影。
何かを察して冷静を保つ者――。
少年は、短駆で銀髪が目立ち、不機嫌そうに眉をひそめる。
事態を飲み込めず、警戒する者――。
少女は、トレンチコートを着て、椅子の手すりを擦り、落ち着かない様子。
物珍しそうに周りを見渡す者――。
美青年は、腰に2本の刀を差し、自分の家ではないことに薄々感付く。
これから起こることに期待の笑みを浮かべる者――。
少女は、長い槍を抱えており、いつも見る夢と違い、胸を踊らせている。
退屈そうに頬杖をつく者――。
少年は、大きなあくびをしながら、ぼんやりと呆けている。
テーブルに足を乗せ、平然とする者――。
青年は、すぐそばに大剣を置き、退屈そうに過ごしている。
状況を把握するため、全神経を集中させる者――。
それは姿形が存在せず、椅子の上で黒い
皆、気付いたらこの場に居合わせていた。
「ご機嫌よう、紳士淑女の皆さん」
突如、黄色い声が部屋中に響き渡り、見上げると2階の踊り場の手すりに妖艶な空気を漂わせる美女が腰掛けていた。
「ようこそッ! 我が城へッ!!」
その場にいる者達の注目を浴び、不気味な笑みを浮かべる。
見た目は、黒一色のゴシックドレス。
その中で彼女の短い金髪と白い肌が一際映えている。
薔薇の装飾のベールをかぶり、首には帯状のリボン。
ロンググローブの手には鉄の扇子。
ボリュームのある膝丈のスカートの下には、タイツにハイヒールを履いている。
「私は、バートリ・エルジェーベト。
この城の主であり、ここにあなた達を呼んだ張本人であり、この世で最も美しい存在よ」
自己紹介を終え、皆の顔を見渡すバートリ。
「色々混乱しているだろうから、これから丁寧に説明していくわね」
そう言って扇子を広げ、口元を隠す。
「まず、実際のあなた達は別々の場所にいて、あなた達の頭にリンクし、この場へ招待したの」
そして笑みを堪えながら宙を舞い――、
「なぜ、あなた達を呼んだのか? それは――」
テーブルの上に足を着け、大袈裟に両手を広げる。
「あなた達が、この世で最も私を殺せる可能性を持つ者達だからよッ!!」
席に座る一人一人の目を見ながら、その場で躍り始める。
「“梟雄”、“剣聖”、“封魔師”、“人形”、“偶像神”、“幽鬼”、“烙印者”」
天井へ高らかに声をあげ、彼女のテンションに、周りは置いていかれていた。
「喜びなさいッ! この私に選ばれたことをッ!!
誇りなさいッ! この私と戦える資格を得たことをッ!!
今、この時を以て、史上最強の騎士団が結成されたのよッ!!」
――次の瞬間、彼女の声は止んだ。
なぜなら、胴体から首が離れていたからだ。
“剣聖”と称された美青年。
一本の刀が、ゆっくり鞘に収まる。
――次の瞬間、彼女の体は崩れた。
なぜなら、身体が縦に割れたからだ。
“梟雄”と称された大柄な青年。
自分の身長とほぼ同じくらいの大剣を振り落とし、脳天から股まで通過していく。
――次の瞬間、彼女の自由は奪われた。
なぜなら、磔にされてしまったからだ。
“人形”と称された少女。
バートリの足元から無数の鋭い杭が伸び、四肢を貫く。
――次の瞬間、彼女の姿は消えた。
なぜなら、凄まじい光に包まれたからだ。
“偶像神”と称された
テーブルの上で獣へと姿を変えて四つん這いになり、背後から輝く咆哮を直に浴びせる。
「気は済んだかしら?」
その言葉を聞いて、半数の者達が我に返った。
つい数秒前にあの華奢な体を自らの手で無惨な姿に変えたハズが、バートリ・エルジェーベトという魔女は、何事もなかったかのように卓上で仁王立ちしている。
「あなた達の腕は見事だわ。
この私が見込んだだけのことはあるわね。
でも――」
急に4人の身体が、テーブルに吸い付くように得体の知れない力で抑え込まれてしまった。
「私の話は、まだ終わってないのよ」
そして、テーブルは耐えきれず、四ヶ所が陥没し、そのまま床へと沈んでいってしまった。
「“頭にリンクした”と言ったでしょ?
つまり、今、あなた達が考えていることはお見通しだし、私がその気になれば、一生、悪夢から目覚めなくすることだって出来るのよ」
彼女は、4人の殺意の思考を察知し、わざと自分が死ぬ光景を見せた。
つまり、ここにいる7人の精神に干渉し、心を壊すなど容易いということだ。
「あなただけは、最初から気付いていたみたいね。
さすがだわ」
“封魔師”と称された小柄で幼い少年。
顔を覗きこむように見下すと、少年は、無愛想に腕を組みながら視線を逸らす。
「坊やは、恐怖で頭がいっぱいみたいだし」
“幽鬼”と称された少年。
冷や汗をかきながら、彼女を凝視し、身動きがとれないでいた。
「お前は――、まぁ、いいわ」
“烙印者”と称された少女。
彼女に対しては、横目で素っ気ない態度をとる。
両手で軽く叩くと、一瞬で4つの席が元通りになった。
「これで、今、どういう立場にいるか理解してくれたかしら?」
遠回しの脅迫に、4人は驚きを隠せず、険しい表情を浮かべる。
「私って結構気が長いタイプなのよ。
でも、さすがに何年もあなた達が私を殺しに来るのを待っていられるほど御人好しではないわけ。
そこで、期限を決めました」
すると、7人全員の身体のある部分に激痛が走った。
皆、痛がる場所は違く、そこからうっすら紋様が浮かび上がる。
「1年、1年の間に私を殺しに来なさい。
それが過ぎると紋様から毒がまわり、死に至る」
魔女は、人差し指から中指を立て、話を続ける。
「取引や命乞いをしても無駄よ。
あなた達は、抗うことは出来ても逆らうことは出来ない。
安心なさい、私を殺すことが出来れば呪いは解け、あなた達は自由の身よ」
“人形”が、魔女に対して何か訴えようとするが、口がパクパク動くだけで声が出てこない。
しかし、魔女には伝わったのか、彼女の問いに答える。
「理由は単純。
退屈、ただ退屈、ただただ退屈なのよ」
故意に悩んでいる素振りを見せながら、長いテーブルの上を何回も行き来しはじめる。
「私が最強で美し過ぎたが故に、この世の誰も相手をしてくれない。
かといって、人間を滅ぼしたらその後は?
腐人、亜人、巨人…、様々な化け物を相手にしたら2〜300年くらいは楽しめそうだけど、その先に待っているのは孤独、振り出しに戻るわけよ」
バートリの言い分は、メチャクチャでスケールもデカい。
そんな子供みたいな考えに自分達は巻き込まれてしまったのかと心底腹が立ち、同時に呆れてしまった。
「そこで、私は閃いたの。
年に一度、私にとって最高のイベントを作ればいいじゃないと!
私を倒す可能性を持つ者を7人選び、戦う。
そうすれば、何百年も退屈しないで済むじゃない!!」
バートリは、興奮しながら目を輝かせている。
「この場にいるあなた達は、この時代、この世界で史上最強であることを自覚なさいッ!!
そして、才能、技術、知識…、あらゆるものを全て絞り尽くして――」
段々、声のトーンが低くなっていく。
「
やがて、この世のものとは思えないほどの声色で、満面の不気味な笑みを湛える。
その場にいた者達は、魔女の狂気に当てられ、一気に鳥肌が立った。
そして、周りの風景がボヤけはじめ、暗闇に包まれていく。
何万回も経験しているこの沈黙に、深く安堵した。
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