殺してでも奪い取ります
突然のお手紙、すみません。
私は、ある珍しい本を探している者です。
それは日本人のラブレターをただ集めただけの本なのですが、普通の内容もあれば、支離滅裂だったり、一方的すぎたり、はたまた創作した誌を載せたり漫画だったりと、バラエティに富んでいてとにかく面白かったのです。
以前、ふらりと立ち寄った古書店で見つけて立ち読みをし、いざ買おうとしたら、少し目を離した隙に他の人に買われてしまいました。
店主に聞いてみたところ、あの本はISBNコードも振られておらず、個人で作った世界に一冊しかない同人誌だと知ったのです。
本の、特に奇書の収集家である私は血眼になって探しました。
それこそ警察の捜査と同じです。足を棒にして聞き込みを続け、靴底をすり減らして。
すると、監視カメラの映像からその本を買った人物が、あなたの住んでいるエリアに帰っていったことまで分かったのです。
個別に一軒一軒を回ってみましたが、このご時世ですから、ほとんどの方が出てくれません。
それでも諦めきれない。私は行動に出ました。
つまり、あなたの住んでいるエリアの全ての家にこの手紙を投函して返事を待ったのです。
もしその本を持っていたら見せてほしい、もし可能なら譲ってほしい。金額面の交渉には応じますし、希望通りの額面を出せると思います――。
しかし、誰からも返事はありませんでした。
当たり前ですよね。そんな貴重な本をそう簡単に手放すわけがない。
でも、そんなことは織り込み済みでした。
手紙を投函した一軒一軒を回って、その手紙がどうなったかを調べたのです。
多くの人はゴミとして捨てていました。手紙にはうっすらと番号を書いておいたので、どこの誰が捨てたのかまで分かるようにしていましたから。
でも、たった一軒だけその手紙が出てこない家がありました。
そう。あなたの家です。
今、この手紙を読んでいるのですから。
……本をお持ちですね?
見せてもらえませんか? いえ、私に譲ってください。
金額面の交渉には応じますし、あなたの希望通りの額を出す自信があります。
世界に一冊だけの奇書なのです。
収集家としては何としても我が物にしたいのです。
お願いします。
もしダメなら――。
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