主催者より

 おめでとうございます!

 あなたは第五十二回、日本全国殺人ゲームの栄えある被害者に選ばれました!

 一億二千万人の中から選ばれたあなたは、本当に幸運です。

 宝くじと同じ、いえ、内容を考えるともっと低い確率で当選したのですから。

 しかし、そんなラッキーなあなたはこのゲームをご存じないかと思います。

 持っているスマホでは情報収集せずゲームに耽っているだけの情報弱者でしょうから、主催者としてきちんとお伝えせねばなりません。

 改めてご説明申し上げます。

 この日本全国殺人ゲームのルールは簡単で、プレイヤーはあなたを除く日本国民全員が対象となります。

 ゲームの目的はたった一つ、何らかの方法であなたを殺害すること。

 本当にどんな手段でもいいのです。

 殴ったり、刺したり、首を絞めたり。猟奇的な方法でもいいですし、手の込んだ、まるでピタゴラスイッチのようなものでも構いません。

 しかし、ゲームに参加するためには条件があります。

 そんなに難しいことではありません。それはたった一億円を国に納めるだけでいいのですから。

 そう、プレイヤーはお金を払ってあなたを殺害するのです。

 国はそれで潤いますし、プレイヤーはハラハラドキドキの大興奮を味わえます。

 なぜこんなことをするのかと思いましたね?

 元はと言えば、日本の幸福度が世界でもまれに見るほど低いことから、政府が極秘裏に閣議決定したゲームなのです。

 こう申し上げると、たった一人の殺人者が幸せになって日本全体の幸福度が上がるのかとあなたはきっと思うでしょう。

 それがあなたの考えの浅いところなのです。だから被害者に選ばれてしまうのですよ。本当にバカですね。

 プレイヤーが興奮しながらあなたを殺害する。警察もゲームと分かっていますから、事件として扱うものの、捜査はしない。

 するとどうでしょう?

 あなたが殺されたことで、まず家族の皆さんが幸せになるのですよ。

 ああ、やっと死んでくれた。無駄飯食らいがやっと消えて、これで家族全員、何の憂いもなく暮らしていける。

 この幸せは職場にも伝搬します。

 ろくすっぽ働きもしない穀潰しが死んでくれた。

 このご時世なので辞めさせるわけにもいかない会社の上司や経営陣は、あなたが死亡したニュースでほっと胸をなで下ろすことでしょう。

 これで既に一ダース以上の人間が幸せになりました。

 しかし幸せはまだ続きます。

 あなたが殺された現場周辺の人々には、非日常感が与えられます。

 どうして殺されたのか? 何があったのか?

 あなたの死亡をネタに、普段は付き合いのないご近所同士の会話が生まれ、そこからコミュニティが生まれるのです。

 何気ないお喋り。冗談を言って笑い合う。人と人との出会いは多くの幸せをもたらします。

 これで百人を超えました。

 いえ、まだまだ増えますよ?

 あなたの死に方が珍しいものだったり、アクロバチックな、まるで極上ミステリーのような内容だったら?

 これはもはやエンターテイメントです。

 マスメディアを通じて全国に報道され、一億総探偵のような状態で日本全体が盛り上がるでしょう。

 犯人は一体誰か? 動機は? どんな手段で? 目的は何?

 ネットで素人探偵が披露する推理のTwitterやブログを見て盛り上がり、テレビに登場する職業探偵や元刑事が憶測する真相を聞いて、ああでもないこうでもないと議論を沸騰させ――。

 ほら。

 日本国民全員が幸せになりました。

 でも、これまでの五十一回の間には、さほど幸せにならない殺し方をしたプレイヤーがいたのです。

 むしろ、そちらのほうが多いですね。

 電車のホームで後ろから突き飛ばしてみたり。はたまた、普通に家に忍び込んで殺してみたり。

 あれらには本当にがっかりさせられました。

 一億円払っているのですから、どうしてもっと派手に殺さないのかと嘆いたものです。

 なので、今度こそは日本国民全員が幸せになる殺し方をしてもらいたいと思いました。

 被害者は抽選方式でしたが、あなたが当たって本当に良かったと思っています。

 突然死んでも誰も困らないあなた。

 能力もなく、ただ家族の、職場の、友人のお情けを受けて辛うじて生きているあなた。

 そんなあなたを殺すことに、誰も躊躇なんてしませんから。

 さあ、日本国民全員の幸せのために死んでください!

 エレガントに、かつミステリアスな死に方をしてください!

 あなたの命より何より、日本国民の幸せのほうが大事なんです!

 さあ……死ね!

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