ホテルマンより

 ようこそ当ホテルへ。

 私はお部屋を案内させていただきました当ホテルのスタッフでございます。

 おくつろぎいただけておりますでしょうか?

 北海道へのご旅行と窺っておりましたが、機体トラブルのため急遽こんな何もない茨城の空港そばの、私どものホテルへ泊まる羽目になったと聞き、私どもも心を痛めておりました。

 実際、充分な数のスタッフもおいしい料理も広い部屋も用意することができなかった私どもですが、あなた様は我々を気遣っていただき、逆に当ホテルの全員が救われた思いでした。

 学校にも行けない清掃員の子供、高齢で寝たきりの母親を生かすため身を粉にして働くシェフ、自分の食事を惜しんでスタッフの食料を買うオーナー。

 彼らにチップと優しい言葉をかけていただき、本当に感謝しております。

 だからこそ、お伝えしたいことがございました。

 添乗員の一人が言っていたのです。これはあなた様を足止めさせるための罠だったと。

 一般人のあなた様になぜと思いましたが、すぐに納得できました。

 あなた様は今は亡き前天皇の若かりし頃の隠し子だったと仰っておりました。

 その気品溢れる立ち居振る舞い、優しく慈愛に満ちた表情、丁寧で相手を気遣う言葉遣い、全てに納得したのです。

 だからこそ飛行機の機体トラブルなどと称してあなた様を足止めしてまで、拉致したのでしょう。目的は日本政府に対する脅迫だとも言っておりました。

 添乗員と旅行会社のスタッフたちは、テロリストだったのです。

 ですが、あなた様のご身分を知り、悪人どもの悪巧みを聞いてしまった以上、見過ごすことはできません。

 午前一時には彼らも部屋で休むと言っておりました。そのお部屋には非常口が設置されております。そこから外へ逃げてください。

 私どもが手引きして別の場所へかくまわせていただきます。皇室の方ともなれば相手が死に物狂いで探すのは必定かと思います。

 場合によっては数日から数週間の隠遁が必要かもしれません。この命に代えてあなた様を守り抜く所存ではありますが、ご存じの通り私どもはその資金がございません。

 そこでお願いがございます。

 スマホをお持ちのようですので、ネットバンキングから以下の口座にお金を……。

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