異世界に行ったので色々作りながらのんびりしたいと思います

まるり

第1話 始まり

 まず目にしたのは白い空間と空中に浮かぶ光の球だった。

 とある休日の買い物帰り、七瀬澪ななせみおは交通事故に巻き込まれた。横断歩道で信号を待っていたところ猛スピードで車が突っ込んできたのだ。

 その時澪は、すぐ隣にいた小さな子供を庇った。その後急激なブラックアウトに襲われ意識は無かったから多分その間に死んだのだろう。それならば今いるこの世界は、俗に言う死後の世界というものであろうか。

「その捉え方は正しいかもしれません」

 突然空間に声が響いた。

 目の前の光の球が急に姿を変えていく。そうして現れたのは一人の女の子だった。

「あっ」

 澪が声を上げた。その子供はさっき交通事故から庇ったあの子供だったからだ。

「先程は助けていただいてありがとうございました」

 見た目が幼稚園児くらいの子供が澪に向かって深々と頭を下げた。言葉遣いと外見のギャップが半端ないがそこは受け流すことにする。日本中探せばそう言う子供の一人くらいはいるだろう。

「よかった。大丈夫だったんだ」

「はい……ですが……」

「私、死んだんですね」

「はい」

 澪の言葉に女の子は眉を曇らせた。

 その後話し出したことによれば自分はこの地球とは違う世界の神であること。世界観察のためにたまたまあの場にいたこと。とっさに力を使おうと思ったが間に合わなかったこと。そして澪は車との衝突事故で亡くなった事を告げた。

 それでも魂を地球の【カミサマ】から預かり、今この場に連れてきたと言う。

「チキュウであなたの死亡が公式に確認された以上生き返らせることはできません。ですが助けていただいた恩を私はお返ししたい。そこであなたを私の世界に連れていきたいのですが、その前にあなたの意思を確かめようと思いまして。ここで嫌だとおっしゃれば今の魂が消滅し、完全にあなたと言う存在がなくなってしまいます」

「はい、って言ったら?」

「私の世界へお連れします。といっても私の世界はあなたたちの歴史でいうところの中世程度の文明までしか発展していません。現代の文明で生きるあなたには不便な事も多かろうと思いますがそれでもよろしければお連れします」

 すらすらと告げる自称【異世界の神】はそう言って澪の答えを待った。

 嫌だと言えば消滅、はいと言えば生存。

 選択肢は後者が良さげだがその代り現代文明とは全く違う生活を強いられることになる。現代っ子の澪にはいろいろと大変かもしれない。

 一瞬悩み、それから【異世界の神】へ尋ねた。

「すみませんが、あなたの世界は地球とどれだけかけ離れていますか? 例えば鉱物資源や動植物などは地球の物と全く違うとか、あるいはこっちの世界でモンスターと呼ばれるような存在がいるとか」

「鉱物の組成はチキュウと変わりません。例えば鉄は私の世界でも鉄です。動植物はチキュウのそれと見た目が同じものも全く違うものもあります。私の世界にしか存在しないものも一定数存在しますし、あなた方の世界観ではモンスターと呼ばれるようなものも存在します。そうですね……ファンタジーの世界が広がっていると考えればよいでしょうか」

「それじゃあ不便で危険でも私が生きていける事は可能なんですね」

「はい。その点は保障します」

 大きく【異世界の神】は頷いて見せた。

 どうせ消滅するくらいなら不便でも生きる方を選びたい。

 そう思ったら後者も悪くはないだろう。郷に入りては郷に従えというやつだ。

「それでは答えは?」

「死ぬのは嫌なので連れて行ってください」

 澪の答えに【異世界の神】はほっとしたような表情を浮かべた。

「わかりました。それではこれからあなたを私の世界へお連れします。その前にいくつか質問が。外見はそのままでよいですか?」

「そうですね……特にこだわっていませんのでこのままでいいです。あ、でも視力は眼鏡なしでも大丈夫なくらいにできますか?」

 視力が低い澪は普段眼鏡をかけているが、異世界でもしも壊れた時の事を考えると裸眼で普通の視力が合った方がいい。

「それは可能です。それとあちらの世界で行動しやすいよう特殊能力等は欲しいですか?」

 澪は考えた。

 【異世界の神】はファンタジーの世界が広がっていると言った。ファンタジーは澪も漫画やアニメ、ゲームなどで触れたからおおよそは分かっている。そこで生きるための特殊能力といえば魔法などの類だろう。

 それならファンタジー世界でやってみたいことがある。

 魔法の薬やアイテムを作る『錬金術』をキーにしたゲームが澪はお気に入りだった。もしも叶うならばそういう能力を使ってみたい。そしてその能力が使えるなら、不便な異世界の文明レベルでもなんとか生きていける気がする。

「えっと錬金術っていうか……魔法の薬とかアイテムとかを作れる能力があればいいかなって……」

「錬金術ですか。私の世界にもそれに似た技術はありますのであなたが持っていても問題は無いですね。それではその能力に必要なスキルも一緒に加えておきます。そのようにいたしましょう。他には?」

 【異世界の神】の問いに澪は首を横に振った。

 それを見た【異世界の神】は頷き、片手を上げる。

 次の瞬間澪を光の粒が包みこんだ。光はますます強くなり、互いの姿が見えなくなるまで輝いた後。

 急に足元が落ちる感覚と共に、意識が途切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る