第十四話 春介遼二サイド:戦慄
「.......ふ....」
マルシャーと自分で呼んだその無力化された女性の方に近づいていくと、小声で何かを言おうとした。
「ふざけるなーーー!!!」
いきなりそう叫んだ彼女はその仮面の目元部分が私の紅蓮禍刀(グレンカトウ)の四斬の時に横薙ぎに切られて、横一線に切り裂かれた跡ができた仮面と同時に両目も潰された状態になった今は血を滴らせながら乱暴にそれを外した!
「-ガキ一匹がこのマルシャー様を逮捕だなんて、百年早いわーー!貴様は確かに召喚されて間もないのに恐ろしいまでの神使力量を獲得しているようだが、生憎とさっきの技はもう見せてもらったのだ!これ以降はあたいに効かなくなるぞ。」
仮面を外して屋根の上に投げ捨てた彼女の素顔は普通の20代の女性の顔で、特段に容姿が目立つわけでもないけど、顔筋にはどこか経験の豊富さが窺えるような見た目にも見えますね。肌色は私に似ているような白さを持っているようだけど、少しは色素が濃いみたいで私の方が薄いようです。髪の色は茶色のようです。
「中聖白息(レーシアンナ)」
右腕の腱を切られて腕を動かせなくなるはずだが、神使力を身体中に迸らせてそんな言葉を口にしたようですけど、見る見る内に数秒の間だけで、全ての傷が癒えて
目も見れるようになった。
これはこれは........どうやら戦闘はまだ終わりそうにありませんね。本当に厄介です、あの治癒系の現神術は.....。授業でざっと習った程度だけど、中聖白息(レーシアンナ)は治癒系として、小聖白息(レーシア)より上の効果を持っていて、中型クラスなのです。小聖白息(レーシア)の発動条件は神使力を手に集積して、治癒したい箇所に触れることで効果を発揮するらしいですが、中聖白息(レーシアンナ)はそれをしなくても、神使力を全身に巡らすだけで使用でき、そして効果は見ての通り、わずか数秒しか経ってないのに、傷ついた全ての箇所が全治しました。
「その技.....卑怯ですね。」
敵が全治したのをみて歩みを完全に止めた私はそう呟きました。
「-はっ!ったりまえだー!貴様に捕まるほどヤワじゃないぞ、このマルシャー様がー!」
「ご自分の力に自信がありそうな口ぶりしているようですけど、ならこの私の次の技を受けても凌げますか?」
そう。私にはまだ複数の必殺技が残っていて、2年も前から今に至っての間に有栖川流の技として父上から直に伝授してもらいましたのです。更に、この世界にきてから神使力も身体に流れはじめて身体能力が何倍も上がってきた今の状態が加えられたら、私の総合的な戦闘能力はもう以前と比較できないほどに段違いになりました。なので、あなたがどれほど強かろうと、なんか負ける気がしませんね。
「....有栖川流。高速乱舞の刀遊。一型。」
脳内の思考を止めて、敵の存在にのみ意識を研ぎ澄ませながら、両脚の間を狭めてくっつかせた。そして、鞘に収めたままの紅蓮禍刀(グレンカトウ)の柄を両手で握ったままそれを相手に向かって突きつけるような姿勢にします。
「開始!」
鋭いながらも凛と響いた私の声が発されたと同時に、神使力を身体に纏いながら、舞うように高速な回転をするように全身を独楽のように動かしつつ敵に接近していきます。
ズバーーーーッ!!!
「--!?--」
かろうじて避けられたようでしたけど、ローブの4箇所が長く線を描いて切り裂かれて、四つの線が重なった状態を胴体にできてしまったマルシャーです。
そう。この技はぎりぎり避けられても避けた距離がそんなに離れてなければ、まるで当たったかのように深く切り裂かれざるをえません。それは、剣の振り方と突き出し方や身体の回し方によって導かれた絶対的な結末であります。その複数の線を具体的に説明するとこうなります:二つの線がXマークを作って中心に線が重ね合わさるのに加えて、別の二つの線の片方は胴体の肋骨のところに左から右に横一線に切り裂かれ、二つ目は縦一線に股間のあるところに下から上までの箇所である鎖骨の中心、つまり喉のすぐ下に切り裂かれて、全ての線が繋がったように見えるのはやはり胴体の中心箇所である腹のところです。
プッシャーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
まるで液体の爆発でも起こしたかおのように、マルシャーは大量な血を辺りに撒き散らせながら、立てなくなり膝から崩れ落ちた。
「.............がぁーー!はぁ............はぁ............くそー!」
うつ伏せになって倒れた彼女は先みた流血の通りに私のつけた傷が深いらしくて、指一本も動かしづらい状態で、頭を上げて私の方に向けて睨むことすらできずにいるようです。その状態ですと、恐らく血の流出が激しすぎて、それに伴い激痛と朦朧とし出す思考でまともに現神術の発動も困難となるでしょうね。この数日の授業で習ったんですけど、現神術の発動に必須なのは集中力と神使力の膨れ上がる感覚を全身に行き渡らせることですね。でも、深い傷を負うと、集中力が散漫となっていて、意識をそっちに傾けられない状態になりますので、もう治癒系の技を発動したくてもできないようですね。
「では、これで楽に連行していけますね。」
これでもう終わりました。本部へそいつを差し出しに行って、念話で女王が連絡してくれた際に任務成功を報告した後、早く帰って寮にある共同風呂場でお湯に浸かって眠りにつきたいですね。なぜなら、この日は長かったし休みたくてしょうがありません!
ドーッ!ドーッ!
なるべく足音を抑えながら、ゆっくりと倒れるままの彼女の方に向かって歩いていきます。屋根はよく響くから、気をつけて下に住んでいる市民を起こしてしまわないようにしないとですね。
後、2歩ってところにうつ伏せになって横たわっている彼女との距離をゼロにできるって時に、研ぎ澄まされた私の感覚でさえ気づかないほどな光のような速さで目に見えずに一本の矢が私のすぐ前の地面へ飛来して突き刺さったのです!
「--!?誰ですーー!?」
慌てて、後ろへ飛び退りました。辺りをきょろきょろ見回して敵の気配を探ったり警戒してるように五感すべてを鋭利に駆使しましたけど、どうやら飛来してきた方向に向かって意識を集中してもそれらしき敵の反応と気配が感じずにいます。授業でも習ってましたけど、どうやらこの世界では神滅鬼だけじゃなくて、他のヴァルキューロアの体内に流れる神使力を頼りに正確な位置を特定して探すのは困難のようで、探知系の現神術を使わないと、探せないらしい。あるいは、女王だけが使える、常時発動型の現神術、<シェローナ>さえ使えば.........。
「まったくですー!面倒くさい仕組みのようですね、この世界の異能力って。とある漫画だったら、相手の気の発生元を辿って探せたのに、不便この上ないですねー。」
「それはボクも常に思ったことなので、同感なのよー。」
文句のように愚痴た私でしたけど、驚くべきことに、どこからともなく声が響いてきましたーー!
ドーーーーーツ!
「----!!!???---」
戦慄。
恐怖。
殺される。
死ぬ。
産まれて初めて、こんな暗くて絶望的な感情や強烈な危機感を本能的に感じました。
それもそのはず、いつの間にか、倒れたままのマルシャーの前に私と彼女との間に阻むような位置に立っているのは青色の鎧を全身で覆っている女性の体格をしている人なのです。頭も兜をかぶっていて、顔が見えません。
そう。
本能的に分かるんです。
彼女は神使力を一切に放出しない状態にあるのにも関わらず、どこかとっても危険な者で、挑んではならない雰囲気を醸し出している。
恐怖で身体をいっさい動かせないままでいる私は大量な汗を垂れ流しながら、がくがくと震えだす膝が抑えられないように今もすぐに崩れる状態でいます。
怖くて、逃げ出す衝動に駆られるけれど、やっぱり身動きが取れません。
「爆激強効溶解液(エジューシラン)」
低い声でそう声を発した鎧姿の女性は人さし指を後ろにいるマルシャーに向けると、わずかに光ったかと思うと、次には黒い液体がそこから絞ったビームのような狭い線で噴出し、指の動きにつれて彼女の全身を濡らしていきます。
「---あああーー!!!あがあああああああああーーー!!!!」
そう。鎧の人の脇を通して後ろのマルシャーを見てみると、彼女の身体はとんでもない速度で液体によって溶かされていて、10秒もたたない間にまるで映画で見た強烈な酸性により跡形もなく溶かされ蒸発させられたような光景が目の前で起きているんです。なんです、あれはーーー!!??デタラメすぎますよ、それーー!!
「...........帰る。」
静かにそれだけ口にした鎧の女性はまるで瞬間転移でもしているかのように、いきなり消えていったんです。
「......................」
残された私は恐怖から開放された反動で尻餅をついて地面に崩れ落ちて、女の子座りの姿勢になってしまいました。
ジョロージョロージョローーーー.......
「---うぐっ.........ひくっ.......」
それだけじゃなくて、まるで自分の身体の機能もなにひとつ制御できないように、滝が流れるがごとく大粒の涙を無意識に溢れ出しながら情けなく失禁してしまったのです。
「........くっ。有栖川家の........ひっくっ!..........人間に..........なんて屈辱的な........うぐっ......」
まるで無力な子羊のように、独りでさっきの恐怖が抜け切れない心境で、2種類の体液を流している哀れな私がそこにいるのでした...............。
誰にもこんな惨めな姿を見られないのが私にとって、唯一な救いでもありました。遼二君、ごめんなさい.......。人の上に立つ宿命にある有栖川財閥の後継者ともあろうこの私が.........あんな得たいの知れない化け物のような存在に、弱みを見せてしまいました..............。ひくっ......。
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