第十三話 春介遼二サイド:暗躍する者との一戦

現神戦武装(ディヴァイン・アームズ)。それはヴァルキューロアが使う武器の名称で、金属精錬の現神術<ラントゥーン>と金属聖化の現神術<ネリーグ>を両方使って、二つの貴金属、オリハルザムかシリシアにそれらを当てて製作することで、作られる特殊な武器なのである。 ヴァルキューロアにとって、それは神滅鬼との戦いにおいて、欠かせないような重要な武器である。なぜなら、神滅鬼は神使力の込められてない攻撃を受けてもダメージが一切入らないので、使う武器には神使力を纏ったり通したりしても損傷を被らない現神戦武装が必須なのだ。普通の一般の武器ではヴァルキューロアの神使力に耐えられず崩れてしまうからだ。勿論、素手による攻撃....たとえば、パンチとか蹴り等で神使力を込めて戦うという手もあるが、それは階級の高い神滅鬼にほとんど効かないのである。


素手で発動可能な現神術を使ってもいいけれど、強力な現神術を発動するには現神戦武装を使わなければならない。なぜなら、強力な現神術の発動には大量な神使力が必要となるので、現神戦武装を使えばその神使力の消費が軽減され上手い具合で調整できるからだ。それに、それぞれの種類の武器を使って、<武器限定の現神術>もあるので、結論からいうと、各ヴァルキューロアには現神戦武装の所有は必須なのである。それを各国の法律にも定められているのだ。


今、ゼンダル王国の王都にて、現神戦武装を持つ二人の女性が一家の屋根にて、にらみ合う現場ではあるが、どうしてそんなことに至るのか、説明するには35分ぐらい前に時間を遡る必要がある:


35分前、王都フォルールナの一角にある学園寮にて:

有栖川姫子の視点:


早山君達が無事にあの神滅鬼の大群を撃退できたという朗報を王城で聞いた時、ほっとしましたね。遼二君の親友ではあるけど、彼は私の友人でもありますから。もちろん、森川さんもエレンさんもネフイールさんもですね。では、寮に戻ってきて5分しか経ってないけど、遼二君は疲れる様子のようだったから、そっとしておいた方がいいですね。今はさっきの放課後にもらったこの私の現神戦武装、<紅蓮禍刀(グレンカトウ)>を試しに素振りしに行きたいですね。実戦の前に手慣らしは必要なので。


【有栖川!有栖川!聞こえるかのうー?】

ん?

頭の中に直接声が響いてくるようですが、これは一体ーー?

【有栖川!こちらは妾じゃ!ネネサ女王じゃよーー! 】

ええー!?この声、そして話しかけてきた内容って本当に女王ですかー?


【うむ。妾じゃー!一対一の念和が必要な時に、こういう通信系の現神術、<カルサー>を使っておる。これは高度なもので、この王国で妾しか使えぬ。じゃ、急遽、御主に頼みたいことがある! 今、<とある不審者>がこの王都をうろうろしてるようじゃが、奴は高度な隠密行動系の現神術<ラダン>を使って行動してるようだけど、妾だけが使用できる高度な常時発動型の現神術、<シェローナ>という戦闘可能な神使力使いを知覚し察知できる範囲内にいるので、かろうじて位置をとらえたんじゃー! 】

!?

不審者ー?それってどういう意味ですか、女王ー?

【言葉そのままの意味じゃよ、有栖川。奴の持つ<戦闘可能な神使力>の質と識別波長は今までの妾の国じゃ一人とて当てはまらないのじゃ! 】


つまり、他国からのスパイとでもいうのですかー?

【スパイとはどういう意味の言葉か知らないんじゃが、工作員といっても差し支えないのうー。 】

それで、私に奴を捕縛しに行けということなんですか?

【話が早くて助かるー!じゃ、頼めるかのうー? 】

どうして私にですか?他に適任がいくらでもいるでしょう?例えば、ローズバーグ会長とか?彼女はこの学園領には泊まってないけど、学園から近くの買い取った一家のマンションに住んでいますよねー?彼女か現在の王都にいる他の<ナムバーズ>もいるというのになぜ彼女たちに頼まないんですか?


【..........相変わらず、一筋縄とはいかないようじゃのうー、御主は...... 】

当然ですよ、私は有栖川財閥の頂点座に君臨すべき正当な後継者で、有栖川家の次期当主でもありますから、そう簡単に他人に丸め込まれてはしませんよ。

【では、不審者を捕まるのに時間があまりないので、単刀直入に、簡潔に詳細な理由を伝えよう。ローズバーグ会長と2番目の座にあるアイシャ・フォン・ルゼーヴィンヌは他国の王女で、妾としてはあまり頼りたくないんじゃー。じゃって、そうすれば、向こうの国に借りを作っちゃう形になっとるからのうーー。 】


それもそうですね。では、他の<ナムバーズ>二人であるエレン姫やネフイールは今、ゾウレーツという地域首都で温泉町にて早山君の率いる第4学女鬼殺隊に今夜だけ泊まっていきますからこの王都にはいないんですけど、他の<ナムバーズ>なら、何人もいるじゃないですか?

例えば、私達の第5学女鬼殺隊に所属してるロザさんやエリーゼさんとか。後、他にもいますよー?例えば、生徒会の会計職を務めるリシェールとか、第3学女鬼殺隊の隊長であるリンゼリアー・フォン・グラハムとか。


【......入学して間もないのに人の名前と職務を完全に記憶しておるとは.....侮れないやつじゃな、御主は......まあ、落ち着いて聞けー!さっきの妾の説明、まだ終わっておらんからのうー!御主に頼む理由としては簡単じゃよー。男性の<神の聖騎士>だけじゃなく、女性の成長具合も確かめたいからじゃよーー。 】

つまり、私を実験台にしようとしてるんですよねーー?


【.....そ、それは確かにそう聞こえても仕方ないんじゃが、この世界に召喚された以上、御主もいずれは戦うことになるじゃろうー?遅ければ早ければ避けられぬならば、実戦に慣れる機会として、今回の一件は御主にとっても悪い話ではないんじゃろうーー?なー? 】

.....................。まったく、人使いの荒い女王様ですね、貴女は........。

【..ほほほうー。この埋め合わせはちゃんとした報奨でもって御主に差し出してやるからどうか悪く思わないでくれーー。 】


...........................


で、現在にいたるという訳です。まったく、貴女って人はー!もし無事に帰還できなかったらどう責任とるおつもりですかーー!?

「おいー!貴様ーー!なにもんだーー!?」

「それはこっちの台詞ですよ、不審者。」

そう。今の目の前の全身をローブで纏っている女性の体格らしき者は仮面もつけながら、怒鳴り声のようにそう質問してきました。

「では、さっきの勧告は聞こえたでしょう?おとなしくすべての武器を捨て、私と共に<治安管理局バルサラ>の本部へ行きましょう。要求に従わない場合、力づくで連れていきますよー?」


「.......っふうーっ。」

えー?

「......ふうー!ふふははははああーー!!!ガキの癖になに生意気なこと言ってんだよーー!?ふははああーー!!」

.....やはり、悪党らしくて、そう簡単には従わないのも予想済みでした。なら、私のなすべきことはもう決まってますよねー。

「力づくでこのマルシャー様を連行してくだってー?はっー!できるもんなら、やってみなーー!」

「........では、遠慮なく........いかせてもらいます.....ねーー!」

「--!?--」


ブシュッーーー!

一閃の斬戟がそのマルシャーと自分で呼んだ不審者を襲う。

そう。さっきは身を低くして、腰を下げて体内に流れる神使力を瞬発力に変えて、鞘に収めたままの紅蓮禍刀(グレンカトウ)を両手で握ったまま彼女に一瞬にして、目と鼻の先にいるような距離に着地したと同時に、寸分の狂いもなしに抜刀して横振りで切りつけた。


ドーッ!

かろうじて避けたマルシャーはローブの一片が切り裂かれた状態で彼女の後ろにある別の屋根へと飛び退った。

「--へええ......。悪くないですね。私の<一閃の雷斬>を避けたとは.......」

少しだけ予想外だったけのでそう声を漏らしながら、鞘に刀身を戻した。

「.....おい、貴様ー!<神の聖騎士>の一人だろう!?確かに、組織から与えられた情報によると、名前は有栖川姫子.....というんだっけーー?多分、平和の世界からここへと召喚されてきた貴様だが、あまりこのマルシャー様を舐めるなよー?なにせ、あたいの逆鱗に触れてしまえば....死ぬぞーー!」


ザシンーー!

さっきの私の攻撃と同様に、全身を光らせて一瞬にして距離を縮めてきた彼女はローブの中に隠れ持っていた一刀のナイフを使って切りつけてきた。

毒が入るかもしれないので、半歩後ろへ下がって避けたやいなや、反撃としてまたも鞘に収めたままの紅蓮禍刀(グレンカトウ)を抜刀して私の神使力によって光り輝く刀身を今度は縦振りに切り上げる!


ズーーシューー!

彼女もまたさっきの私と同様に後ろへ身体を移動させて避けたので、追撃としてまたもその一瞬の振りで鞘に戻した紅蓮禍刀(グレンカトウ)を勢いよく抜き放って、彼女の左腕を狙って、下から斜め上向きに振り上げた!


カチャンーーー!

金属同士のぶつかる甲高い音がこの辺りに響き渡った!どうやら、ナイフで受け切りましたね、私の斬撃をー! 折れないのをみると、やっぱり彼女の持つそれも<現神戦武装>の類で、よく神使力の纏われた私の刀を苦もなく受けましたね。 この真夜中に既に床についた住民がこの音によってびっくりさせられて目覚めてしまわないかとひやひやしてる私ですが、今は目の前の敵に集中しないとーー!


カチャンーーー! カチーン!カチャーーーン!!カチンーーー!!

右。左。上。下。胴。頭。膝。腱。手。どれを狙って刀を振りつけてもすべて避けられたり受け流されたりした。

やっぱり、熟練の戦士と見て間違いないようですねーー!

ならー!


ドーッ!

間合いを開けるために後ろへと飛び下がった。彼女はナイフ持ちだから、当然、私への攻撃を届かせるためには距離を縮んでくる必要があるが、もう近づかせはしませんよーー。


「.........意外ですね。貴女、随分といい動きをしているようですね。」

「--だからー!何度もいわせんじゃねーよ、ガキが!なめーー!?」

そう、言葉を最後まで言えないままで、彼女は何かに気づいて、いっそう警戒を強めて険しい表情を浮かべる。

それもそのはず、今の私は身体をかがめて、神使力を迸らせて体外と武器へ流出させて低い体勢で鞘に収めたままの紅蓮禍刀(グレンカトウ)を構えているのですから。


「では、有栖川流の<四斬絶殺の舞>で以って、この戦いを終わらせましょう。」

「......なんの戯言をいってるか全然わからないんだけど、虚勢もほどほどにー」

ズバッーーーーー!!

「一斬。」

「えー?」


プシュウウーーーーー!!

そう。今の私の一撃は、目に見えぬ光のような速さで彼女の右腕の腱を狙って、使い物にならなくしてやったものでした。これで右手でナイフを持って振るのは困難になるでしょう。<四斬絶殺の舞>は特殊な足取りと身体の捻り方により、普段とは比べられないような速さで敵の近くへ踏み出せて4回の致命的な斬撃を演舞のように当てるのです。

「がッ--!くそーー!!この生意気ガキがーー!!!」

右腕の腱を断ち切られて血を垂れ流しながら激昂してる彼女ですが、構わずに、


「二斬。」

「---ひぎっー!!」

今度は膝蓋骨を切って動き回らなくなるようにさせてもらいました。血を滴らせた彼女は残ってる一本の脚で後退しようとするんですが、すかさずに、


「三斬。」

「あがーーっ!」

今度は左腕の腱も切らせてもらいました。

これで、ナイフを握って戦えないでしょう。


「四斬。」

「ぎゃあああーーーーーーー!!!!」

悲痛な叫び声を上げるようですけど、それもそのはず、両目が切られて見れなくされたからであります。本来の四斬は首を切り落とすところでしたけど、目的は殺害ではなく捕縛ですからね。


「ふう.........ふう..........」

大量な血を垂れ流しながら反抗的な仕草でこっちを威嚇するつもりでいるようですけど、もう戦える状態じゃないでしょうね。

「では、おとなしく連行されなさい。」

命令するように言い渡した私は彼女の方に向かって、静かに、ゆっくりと歩み寄っていくのでした。


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