19話 香りは大事
洗剤やスポンジなどの日用品を買うべく、私と萌恵ちゃんはいつものホームセンターにやって来た。
カゴを手にして少し歩いたところで、ふと芳香剤も切れかけていたことを思い出す。
入口から近いということもあり、私たちは真っ先に芳香剤のコーナーへと足を運ぶ。
「今回はどれにしようか」
「たくさんあるから迷うよね~」
二人とも特にこだわりがあるわけではなく、芳香剤を買う時はテスターを嗅いでみて気に入った物にしたり、かわいいデザインという理由だけで購入を決めたこともある。
萌恵ちゃんの匂いを放つ芳香剤があれば……と何度も思ったけど、仮に実在したら私は香りを楽しむどころか我慢できずに中身の液体を飲み干すに違いない。
いま家に置いてあるのはバニラの香りだから、次は桃なんてどうだろう。
「あたしは桃がいいかなって思うんだけど、真菜はどう? なにか気に入ったのあった?」
商品を手にした萌恵ちゃんが発した言葉に、少なからず驚いた。
「すごいよ萌恵ちゃんっ。ちょうどいま、私も桃がいいんじゃないかなって考えてたの」
思わず声が弾んでしまい、ボリュームを落としつつも興奮気味にまくし立てる。
「おぉ~、やっぱりあたしと真菜は一心同体だねっ」
萌恵ちゃんはカゴに商品を入れた後、優しく抱きしめながらほっぺにキスをしてくれた。
周りに人がいないとはいえ店内であることを考慮して接触は短めだったけど、私の胸を高鳴らせるには充分すぎるスキンシップだ。
ドキドキしたまま店内を回って目的の品を集め、レジで会計を済ませて外に出る。
「いつかアロマオイルに手を出してみるのもいいかもね」
「あっ、確かに。ブレンドして好きな香りを見付けるっていう楽しみ方もできるみたいだし、面白そうっ」
そんなことを話しながら家路を歩き、ほんの数分で到着。
一旦荷物を置いて、手洗いうがいのため洗面所へ。
先に済ませた私は、手を洗う萌恵ちゃんの背後に立ち、そっと抱きしめる。
そのまま萌恵ちゃんのうなじに顔を当て、大きく息を吸い込んだ。
優しい甘さが鼻孔を通り抜け、脳が全身へと幸せを運ぶ。
いろんな芳香剤に目移りしたりアロマの話題で盛り上がったりしたけど、決して揺らぐことのない結論が一つある。
萌恵ちゃんの香りに勝る匂いなど、この世には存在しない!
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