31話 そのさくらんぼは桜色

 夏休みもそろそろ終わり。

 楽しいことばかりで、毎日があっという間だった。

 忘れてはいけないのが、宿題の存在。

 コツコツ進めていたおかげで、残るのは国語で出された俳句のみ。


「真菜~、いい句できた?」


 いい句ではないけど、すでに指定された数は出来ている。

でも、宿題として提出する俳句をそのまま答えるのも芸がない。


「――『双丘の、頂彩る、さくらんぼ』」


 テーブルの向こうにいる萌恵ちゃんを見据えつつ、即興で一句読んでみた。


「おぉ~。よく分かんないけど、きれいな句だね! どういう意味なの?」


「えっ? い、意味? 聞いても後悔しない?」


「うんっ、もちろん!」


 どうしよう。萌恵ちゃんが純粋すぎて心が痛い。


「えっとね、その……双丘は萌恵ちゃんのおっぱいを指してて、頂を彩るさくらんぼは先端部分のことを……」


 視線を逸らしつつ小声で答えると、萌恵ちゃんは笑顔を貼り付かせたままピタリと動きを止めた。

 気まずい、過去最高に気まずい!

 年中発情期な自分が憎い!


「うぅ、真菜のえっち」


 萌恵ちゃんが顔を真っ赤にしてうつむき、上目遣い気味につぶやいた。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、正直かわいすぎて興奮を禁じ得ない。


「ごめん、つい出来心で」


 言い訳をするのは見苦しいので、素直に頭を下げて謝罪する。

 萌恵ちゃんは依然として耳まで真っ赤になったまま、快く許してくれた。


「萌恵ちゃんはいい句できた?」


「できたよ! それも、かなりの自信作!」


 ふふんっと鼻を鳴らす萌恵ちゃん。言葉通り、よほど自信があるらしい。

 これはぜひとも聞かせてもらいたい。


「聞かせてもらってもいい?」


「うんっ! 『公園に、猫がたくさん、かわいいな』 どう? けっこういいでしょっ?」


「うん、すごくいい。イメージが頭にスッと浮かんでくるし、萌恵ちゃんらしさがよく出てると思う。ただ……季語、忘れてない?」


「あ……」


 萌恵ちゃんはノートに視線を落とし、消しゴムを手に取った。

 どうやら、他の句に関しても季語を入れ忘れていたらしい。

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