30話 パジャマパーティー

 最寄りのバス停に着く頃には、すっかり陽が落ちていた。

 爽やかなそよ風を浴びながら、街灯に照らされた道を歩く。

 家に着いて手洗いうがいを済ませたら、ひとまずリビングに腰を下ろす。


「お風呂は二人ずつでいいよね?」


 先ほど給湯ボタンを押したので、しばらくしたら入浴できる。

 私と萌恵ちゃんはここに越して来てから――付き合う前から一緒に入っていたけど、美咲ちゃんと芽衣ちゃんは違う。

 だから念のため、事前に確かめておくことにした。


「い、いいわよね、美咲?」


「は、はい、大丈夫です」


 二人は互いを一瞥してから、コクリとうなずく。

 恋人との入浴を強く意識していることが明白で、初々しい反応が非常にかわいい。

 写真を見ながら話しているうちに給湯が完了し、まずは私たちが先に入ることになった。

 着替えとして持って行くのは普段のベビードールではなく、以前に愛用していたパジャマ。いくら仲のいい友達とはいえ、あんなスケスケの服を着た姿を晒すわけにはいかない。

 おそろいのベビードールを身にまとうのは、萌恵ちゃんと二人きりのときだけだ。


「明日は筋肉痛かなぁ」


「そうなったら、またマッサージしてあげるよ~」


 前にマッサージしてもらったときは、二重の意味で気持ちよかった。

 筋肉痛になるのも悪くないかもしれない。


「ありがとう。お返しに、私もマッサージしてあげるね」


「やった~!」


 私の技量は粗末なものだけど、萌恵ちゃんは純粋に喜んでくれている。それがたまらなく嬉しい。

 脱衣を済ませてタオルを持ち、浴室へ移る。

 扉を閉めるや否や、タオルを風呂蓋に置いて向き合い、唇を重ねた。

 今日はおはようのキスを含めても十数回しかキスしていないので、何気に欲求不満だったりする。

 お互いに相手の背中に手を回してギュッと抱きしめ、肌の温もりを伝え合う。


「萌恵ちゃん、萌恵ちゃんっ」


「んっ、真菜っ、真菜ぁ」


 短めで終わらせるつもりだったけど、いざ始めてしまうと止められない。

 口の端からだらしなく唾液が垂れるのも気にせず、一心不乱にキスをする。

 キスのわずかな合間に、愛情を込めて名前を呼ぶ。

 胸を押し付け、脚を絡め、可能な限り密着する。

 満足するまで楽しんだ後も、髪や体を洗いっこしたり、湯船の中で触り合ったり、ひたすらイチャイチャを堪能した。


「お待たせ。二人もゆっくり愛し合っ――じゃなくて、温まってきてね」


 リビングに戻って二人に声をかけたら、思わず口を滑らせてしまった。

 美咲ちゃんと芽衣ちゃんにも、お風呂でのイチャイチャをぜひとも楽しんでほしい。

 二人が脱衣所に入るのを見届けてから、萌恵ちゃんと一緒に晩ごはんの支度をするためキッチンへ。

 とは言っても、私にできるのはサポートぐらいだけども。




 約一時間後。テーブルの上には、炊き立てのご飯、熱々のお味噌汁、ピーマンの肉詰め、野菜炒め、ほうれんそうのお浸しが居並び、食欲を思いっきり刺激してくる。

「いただきます」と声を合わせ、萌恵ちゃんお手製の品々に舌鼓を打つ。

 萌恵ちゃんの手料理を初めて味わった二人は、あまりのおいしさに驚いてグルメ漫画のようなリアクションを披露してくれた。

 食べ終わった後はみんなで分担して片付けを行い、リビングで談笑したりトランプやゲームをして盛り上がる。

 夜が更けてきたところで、いつも私たちが使っている布団と予備の布団を並べて敷く。

 順番に歯を磨いたら、電気を消して布団に潜る。

 仲よしグループでのお泊りで、カップルが二組。話題が恋愛方面に偏るのは、必然と言っても過言ではない。

 ちょっとしたのろけ話から始まり、徐々に踏み込んだ内容へと移っていった。

 朝まで続いてもおかしくないほどに恋バナが弾んだものの、思いのほか疲れが溜まっていたらしく、日付が変わって少しした辺りで美咲ちゃんと芽衣ちゃんが寝息を立て始める。

 私もそろそろ、意識がぼんやりしてきた。

 大きなあくびを漏らすと、それにつられて萌恵ちゃんもあくびをする。


「萌恵ちゃん、おやすみ」


「おやすみ~」


 ちゅっ、ちゅっと何度かキスをしてから、私たちも眠りに就いた。

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