17話 ハンドクリームとリップクリーム

 敷いたばかりの布団に腰を落とし、ハンドクリームを手に取る。

 キャップを外そうとしたその瞬間、天啓を得た。

 ハンドクリームは本来、自分の両手を使って塗り込む。

 でも、他の塗り方が皆無というわけではない。

 私が思いついたのは、左右の手にハンドクリームを垂らしてから萌恵ちゃんと手を重ね、お互いに相手の手を使って塗り込むというやり方だ。

 この方法なら、ハンドクリームを塗るという行為が飛躍的に素敵なものへと昇華されるのではないだろうか。


「萌恵ちゃん、いいこと思い付いたよっ」


 私は瞳を輝かせ、嬉々として萌恵ちゃんに説明した。

 萌恵ちゃんの快諾を得たことで、すぐさま実行に移す。


「それじゃあ、始めるね」


「んふふっ、楽しみ~っ」


 布団の上で向かい合って座り、準備は完了。

 左右の手のひらにハンドクリームを垂らしたら、流れ落ちないように気を付けつつ、胸のあたりで萌恵ちゃんと手を合わせる。

 重なった手の間でハンドクリームが広がり、お互いに手や指を動かして全体に塗り込んでいく。

 絡めた指から、ぬちゅっ、と粘着質な水音が鳴る。

 こうしている間も視線は手ではなく、正面――萌恵ちゃんの顔から離さない。

 ジッと見つめ合い、時に微笑みかける。

 さらには、どちらからともなく顔を近付け、軽く口付けを交わす。

 しっかりとハンドクリームを塗り込んだ後も、私たちは指を絡めて手を握り合ったまま、体勢を変えようとはしなかった。


「真菜~、あたしもいいこと思い付いちゃった。リップクリームでも、同じようにできそうじゃない?」


 何度目かのキスをした後、不意に萌恵ちゃんが告げる。


「萌恵ちゃん……天才!」


 そして私たちは、リップクリームを塗るという名目で改めて唇を重ねるのだった。

 自分で塗った方が早いのは紛れもない事実だけど、こういう方法も悪くない。というか、世界中のカップルに推奨したい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る