8話 運動するなら曇りの日に
動きやすい服装に着替えて、髪をポニーテールに結い、タオルとスポーツドリンクをバッグに入れ、バドミントンのセットとフリスビーを持って家を出る。
朝から曇り空が続いている日の昼下がり、私と萌恵ちゃんは運動のため近所の公園へ向かった。
カラッと晴れた日に体を動かすのも気持ちいいけど、日射病の危険は無視できない。
やや薄暗く感じる程度の曇り空、湿度はそれほど高くなく、肌を撫でるそよ風が心地いい。今日はまさに絶好の運動日和と言える。
「萌恵ちゃんはどんな髪型も似合うよね。思わず見惚れちゃうぐらいかわいい」
「んふふっ、ありがと~! 真菜の方こそ、すっごくかわいいよ!」
腕を組んでピッタリと密着しながら、同じ歩調で住宅街を進む。
気温が低いとはいえ夏場であることには変わりないけど、私たちはたとえ猛暑であっても離れない。
それほど遠い場所ではないので、額にうっすらと汗が滲み始めた頃に目的地へと辿り着いた。ここまでの道のりは、ちょうどいい準備運動だ。
「よーし、頑張るぞ」
バドミントンのラケットを取り出し、意気込みを口にする。
萌恵ちゃん相手だと善戦すら難しいけど、全力は尽くしたい。
「負けないよ~。真菜にかっこいいところ見てもらいたいからね!」
ラケットを握って軽く素振りをしながら、爽やかに微笑む萌恵ちゃん。
その姿がすでにかっこよく、まだ始まってもいないのに『来てよかった』と強く感じてしまった。
「それじゃ、始めようか」
「うん!」
適度に距離を取り、ラケットを構える。
サーブ権をもらった私は左手でシャトルを軽く宙に放り、タイミングを見計らって右手を勢いよく振り抜く。
ヒュンッとラケットが空を切る音が聞こえた直後、シャトルが地面に落ちた。
「ふっ、さすが萌恵ちゃん。やるね」
シャトルを拾いつつ、賞賛の言葉を贈る。
「へ? いや、真菜が空振りしただけ――」
「行くよっ」
萌恵ちゃんの言葉を遮りつつ、再びラケットを振るう。
ポトッ。まるで先ほどのリプレイ映像を流しているかのように、シャトルはラケットにかすりもせず足元に転がる。
「……えっと、真菜? もしよかったら、あたしがサーブ打とうか?」
「うん、お願い」
萌恵ちゃんは平然とサーブを成功させ、しばらく打ち合いが続いた。
ラリーが途切れないのは、萌恵ちゃんが私の打ちやすいところに返してくれているから。
始める前は勝負を意識した会話を交わしたものの、いざ始めてみると勝敗なんて気にならなくなっていた。
しばらくすると私の体力が底を突き、ベンチに座って休憩する。
持参したスポーツドリンクでのどを潤しつつ、荒くなった息を整える。もし快晴だったら確実に倒れていた。
隣に座る萌恵ちゃんは私と同じぐらい汗だくだけど、まだまだ余裕といった様子だ。
「レモンのはちみつ漬け作ってきたんだ~。真菜、食べて食べて」
萌恵ちゃんはウェットティッシュで手をきれいにしてから、バッグからタッパーを取り出す。
蓋を開けて中から輪切りのレモンを一つつまみ、私の口元に運んでくれた。
「はい、あ~んっ」
「あーん」
パクッとレモンを頬張り、どさくさに紛れて萌恵ちゃんの指に付着したはちみつも舐め取る。
うん、甘酸っぱくておいしい。一瞬とはいえ萌恵ちゃんの指も咥えさせてもらったし、あっという間に気力がみなぎってきた。
私もきちんと手を拭いてから、萌恵ちゃんの口にレモンを運ぶ。
しばらく休憩したら、今度はフリスビーを楽しむ。
萌恵ちゃんは私の暴投を難なくキャッチし、正確無比なコントロールで私の胸元に放り返してくれる。
満足するまで遊んだので、軽く汗を拭いて公園を後にした。
家に着き、物置にバドミントンのセットとフリスビーを仕舞う。
改めて水分補給をしてから、全身にまとわりつく汗を流すべくシャワーを浴びる。
運動中に密着できなかった分を補填するかのように、泡まみれの体で抱き合ったりキスをしたり、たくさんイチャイチャした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます