6話 今日も朝から幸せ

 今日、先に目を覚ましたのは私だった。


「萌恵ちゃん、おはよう」


 まずは隣で眠る恋人に、言葉でのあいさつを投げかける。

 すぐさま顔を寄せ、ぷるんとした桜色の唇に優しくキスを落とす。


「ん……まにゃ」


 うっすらとまぶたを上げた萌恵ちゃんが、呂律の回らない状態で私の名前を呼んでくれた。

 なにも特別なことじゃないはずなのに、好きな人から名前を呼ばれるというのは、それだけで心が満たされる。


「おはよ~」


 萌恵ちゃんは寝ぼけながらも私の体を抱き寄せ、流れるように本日二度目のキスが行われた。

 夏用の薄い掛布団の内側から、萌恵ちゃんの匂いがふわっと漂う。鼻孔を通り抜けて脳へと伝わり、天然の媚薬として私の体を発情させる。


「大好き、愛してるよ」


 私の方からも背中に腕を回して抱きしめつつ、これまで数え切れないほど伝えた愛の言葉を口にする。


「んふふっ、あたしも~。真菜大好きっ」


 好きな人に面と向かって好きだと言えるばかりか、相手からも同様の気持ちをぶつけてもらえる。これほど嬉しいことはない。


「いつも思うけど、真菜ってすごくいい匂いだよね~」


 萌恵ちゃんが私の首筋に鼻を近付け、軽く息を吸いながら明るく言い放った。


「あ、ありがとう。でも、萌恵ちゃんの方が何兆倍もいい匂いだよ」


「いやいや、それを言うなら真菜の方が――」


「ううん、萌恵ちゃんの方が――」


 以降、十数分に渡って同じやり取りが繰り返された。白熱するあまり滲んだ汗が雫となって布団に滴り落ちたあたりで、このままだと永遠に終わらないと気付く。


「そろそろ起きようか」


「うん、そうしよ~」


 意見が一致したことで、額の汗を拭いつつ上体を起こす。

 布団を片付けて諸々の支度を済ませ、散歩に出かける。

 現時点ですでに汗をかいているので、歩き始める前からシャワーを浴びるのが待ち遠しい。

 大好きな萌恵ちゃんと一緒に迎える、平和な朝。

 今日も朝から幸せだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る