2話 入学式はつつがなく

 高校生活初日、入学式。

 昇降口に張り出されたクラス名簿には、此木このき萌恵もえ桜野さくらの真菜まなが並んで記されていた。

 勝った!

 胸中でガッツポーズを決めると同時に、安堵して胸を撫で下ろす。

 どうでもいいことだけど、私の胸は萌恵ちゃんと比べれば平らに等しい。本当にどうでもいいけど。まったく気にしてないし。


「やっぱりあたしたちって一心同体だね!」


「あはは、それは言いすぎじゃないかな? でも本当に嬉しい」


 人目もはばからず抱き合い、喜びを露わにする。

 この高校は他の女子校と比べて百合な雰囲気を匂わせる生徒が多く、ハグ程度なら目立つ行為ではない。

 正確には、は目立たない。

 私たちは外見的要因から、否応なく人目を引いてしまう。

 萌恵ちゃんはかわいくて胸が大きくてお肌もすべすべで声もかわいくていい匂いで優しくて明るくて――などなど魅力を挙げれば枚挙にいとまがないので言わずもがな。

 かくいう私も、祖父譲りの銀髪と日本人の水準からすれば白い肌が原因で、なにかと視線を向けられることが多い。

 二人とも日本生まれ日本育ちのクォーター。小学生の頃は同級生から好奇の目を向けられたけど、萌恵ちゃんと知り合えたきっかけでもある。自分の見た目をコンプレックスに思ったことは一度もない。


「コンビニでアイス買って帰ろうよ!」


「いいけど、食べ過ぎてお腹壊さないでね?」


 入学式とはいえ特筆するようなイベントは起こらず、気付けばもう放課後。

 他愛のない雑談を交わしながら、昇降口で靴を履き替える。

 校舎を出てすぐの横断歩道の向こう側は、私たちが住むアパートだ。学校を背に右を向けば畑や田んぼが視界の大半を占め、左を見れば飲食店や商業施設が建ち並ぶ。

 家が近すぎるせいでコンビニに行くのが寄り道というより回り道になるというのは、新鮮というかなんというか、不思議な感覚だ。こういう感想が浮かぶのは、中学時代に学校が家から遠かったせいだろうか。


「まだ四月なのに暑いよね~、ちょっと歩いただけで汗だくになっちゃうよ」


「確かに。ホームルームの間も、秋までブレザー着なくていいんじゃないかなって考えてた」


「いっそのこと、もう夏服着ちゃおうかな。動きやすいし涼しいし、名案だ!」


「萌恵ちゃん、中学の入学式でも同じようなこと言ってたよ。急に肌寒くなったりするんだから、ちゃんと着ないと」


「真菜の意見に同調したのに!」


 などと談笑しているうちに目的地へ到着し、外より少し涼しい場所へと踏み入るのだった。

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