私がガチなのは内緒である
ありきた
1章 私がガチなのは内緒である
1話 私がガチなのは内緒である
私こと
高校の近くにあるアパートで、手狭だが新築ながら家賃が安く、徒歩圏内にコンビニやショッピングモールがある。あえて難を挙げるとしても、駅やバス停が遠いことぐらいだろう。
「真菜~、すごいよ! ベランダから学校が見える! これなら絶対に遅刻しないよ!」
幼なじみであり同居人――
親友の陽気な姿を見て私も心が躍る。
一階ゆえに階下への騒音は心配ない。とはいえ、完璧な防音が期待できるほど立派な建物でもないので、少し注意しておこう。
「萌恵ちゃん、あんまり大声出しちゃダメ。それに、下見のときも同じこと言ってたよ?」
前回は二人とも家族同伴で、そのときは私も一緒に騒いでしまって仲よく怒られた。
「んふふっ、嬉しくてつい。でも、真菜も嬉しいでしょ?」
柔らかく微笑む萌恵ちゃん。私は荷解きが済んだ段ボールを畳みつつ、「まぁね」と返す。
客観的に見れば、大して違和感のないやり取りに映っていることだろう。そうでなくては困る。
なぜなら、私の胸中はわずかばかりも落ち着いていないのだから。
――かわいい! かわいいかわいい! かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいすぎるよ萌恵ちゃん! 抱いて!
萌恵ちゃんは私にとって天使であり女神だ。
ハーフアップに結われたプラチナブロンドの髪が、開け放たれた窓から吹くそよ風になびいている。美しい。
服の上からでも圧倒的なボリュームを感じ取れる豊満な胸が、彼女のちょっとした動きにすら連動してぷるんっと弾む。エロい。
真昼の太陽にも負けない眩しい笑顔で、新生活の期待に瞳を輝かせている。かわいい。
控え目に言って、萌恵ちゃんは現在過去未来において最高の美少女だと断言できる。異論は認めない。
精緻な顔立ち、抜群のスタイル、透明感のある声音、身にまとう甘い香り。
はぁ、最高。
「そうだ、お昼どうしようか? 萌恵ちゃん、食べたい物とかある?」
このままだと興奮しすぎて危険なことになる。平常心を保つため、適当な質問を投げた。
「うーん、真菜を食べたい……なんてね。ファミレス行こうよ、せっかく近所にあるんだし!」
「はいはい。そうだね、ファミレスにしよっか」
かろうじて平常心で反応できたけど、一瞬心臓が止まるかと思った。
私も萌恵ちゃんに食べられたい! なんならいますぐにでも! 布団ならすぐに出せるし! シャワーとか浴びなくていいから! ぜひ!
落ち着け、私。
思い切り太ももをつねり、正気を保つ。
「二人の新生活を祝して、パーッとやろう!」
「ほどほどにね」
文字通り萌恵ちゃんに背中を押され、家を出る。
雲一つない青空が広がっていて、まるで私たちを祝福しているかのようだ。
「んふふっ、真菜大好き~っ」
不意に抱き着いてくるのは、萌恵ちゃんがよくやるスキンシップ。
ここで言葉と行動の意味を曲解して唇でも奪おうものなら、間違いなくドン引きされて嫌われる。
「私も好きだよ、萌恵ちゃん」
何事もないように取り繕いながら、あくまで本音で返す。
嘘偽りは微塵もないけれど、彼女に私の真意は伝わっていない。
居心地のよい関係を崩さないためにも、私がガチなのは内緒である。
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