友人候補
学校生活、それは平凡こそが素晴らしい。普通に授業を受けて、平均点を取り、運動も優れず劣らず、常に中道を進む。目立たない人生は嫉妬を生まず、侮蔑も生まない。素晴らしきかな人生。
「これで友達がいれば完璧なんだけどなぁ~」
窓際の席で、雲を見ながらボソリと独り言を漏らす。友達。それは俺が今、最も欲しているモノだった。
友人を欲している理由は寂しいからとか楽しくお喋りしたいからとかではない。学生社会は異質なモノを排除しようとするため、友人が一人もいない俺は、平凡な学生ではなく、劣等生、つまりは社会不適合者と扱われていた。愛する平凡な学園生活を守り抜くため、何としても友人を獲得する必要があった。
「友人候補第一号はあいつだな」
通称メガネ君。俺の心の友と呼ぶべき男に視線を向ける。黒髪を短く切り揃えた冴えない顔の男。トレードマークの眼鏡も、平凡さを強調していた。
メガネ君は、運動神経も並み、眼鏡のくせに学力も並み。容姿も優れていなければ、特別劣っている訳でもない。俺の友人に丁度いい平凡な男だ。
「逆にあいつと友人になったら最悪だな」
視線を教室の入口へ向ける。おはようと、笑顔を浮かべて挨拶をしている少女、黒井麗華は文武両道、学業優秀な上に、容姿もそこらのアイドル顔負けという、完璧超人である。当然男子からの人気も高い。誰も手を伸ばせない高嶺の花。あんなのと親しい友人にでもなったりしたら一躍有名人の仲間入りだ。
「あいつには近づかないようにしよう……」
「あいつって誰の事?」
「うわっ」
麗華の整った顔が突然飛び出してくる。長い睫毛と、筋の通った鼻は人間とは思えないほどに美しい。
「また何か悪だくみでも考えていたの?」
「悪だくみってなんだよ?」
「噂で剣崎くんは不良だと聞いたわ。いつも夜遅くに街を出歩いているとも。何か悪いことをしているなら止めた方がいいわよ」
「俺は真面目が服を着たような男だぞ。街にいるのはコンビニのバイトをしているからだ」
「バイト……何か欲しいものでもあるの?」
「いいや。俺は平凡な男だから、学生らしくアルバイトをしているだけだ。実は結構稼ぎも良いんだぞ。学費や生活費を賄えるくらいにはな」
「学費や生活費って、御両親は助けてくれないの?」
「……この世にはもういないんだ」
「そう……ごめんなさい……まずいことを聞いてしまったわね」
麗華は気まずそうに苦笑いを浮かべる。しかし俺は本当に気にしていない。なにせ両親に対しては恨みしか感じていないし、学費や生活費を稼ぐことについても人に依存しないで生きているという充実感を得られていたからだ。
「ただ金は手に入ったし、バイトは減らしてもいいかもな……」
俺は誰にも聞こえないような声でボソリと呟く。なにせ世界一の大富豪になったのだ。もうアルバイトで金を得る必要もない。俺は何気なく、空に浮かぶ雲を見つめた。雲はゆっくりと流れていた。
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