おそろい
天音 花香
第1話
今日の私は昨日の私よりちょびっと可愛い(ハズ)。
髪を結ぶ位置を少しだけ高くして、いつもは普通のリップだけれど、今日は薄いピンクの色付きリップを塗った。そして、左中指にキティちゃんの絆創膏。
よし、大丈夫。
「おはようございます」
言って教室に入って、黒板を見る。その隅に書いてあるのは私の名前と矢野君の名前。今日は好きな人と日直の日。
「お、おはよう! 矢野君。私、日誌とってくるね」
「あ、いいよ、俺が行くから」
「えっと……」
(それじゃあ、一緒に、なんて言えるわけないよね)
「じゃあ、お願いします」
「うん、行ってくる」
爽やかな矢野君の笑顔に、胸がきゅんとして苦しい。やっぱりかっこいいな、矢野君。
(リップ、気づいてくれたかなあ……)
授業の合間の黒板消し。
私の届かない高いところを矢野君が消してくれた。
「あ、ありがとう……」
「どういたしまして」
矢野君との距離がとても近くて、私の心臓は早鐘を打った。頬も熱い。きっと赤くなってる。恥ずかしい。けど嬉しい。先生、もっと黒板に書いてくれてもよかったのに。
「森木さん、具合悪い? なんか赤いけど、座ってていいよ? 俺消しとくから」
「うううん、そんなことないよ? 大丈夫だよ? 私も日直だもん、矢野君だけにやってもらったら悪いよ」
「気にしなくていいのに」
「大丈夫!」
せっかく矢野君の近くにいれるんだもん。
矢野君がくすりと笑った。
「森木さん、いい人だね」
「そ、そんなことないよ?」
ちょっと心が痛む。一緒にいたいという我儘からだから。
そんな私の内心に気づくこともなく、惜しげなく笑顔を見せてくれる矢野君につい見入ってしまう。
好きになってからどんどん矢野君がかっこよく見えるようになって、戸惑う時がある。これ以上かっこよくなったら、直視できないかも。
授業が一限、二限と過ぎていく。まだ終わらないで。もっとゆっくり時が過ぎますように。
そう思っていても一日はあっという間に過ぎていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます