第4話

時折茂みを切り開き、節くれだった木の根をまたぎ、俺たちは森の中を進む。


あーだこーだとしょうもない会話をしながら、代わり映えのしない景色にあくびをはさみつつ。


そうして半日ほど歩き続けたところで、ルシーが足を止めた。


「水の音がする、そろそろだね」


蜘蛛の次に狙うのは体に掛ければ姿を消すことのできるという「消し水」。

今向かっている川ではその元となる水が取れるのだという。


「よくこんな場所知ってたな」


それは森に入ってから随分奥へ進まないと見つからない情報のはず。


「このあたりで使えそうなものを探していたら勝手に耳に入ってくるからねー」


この程度、わけないといった口ぶりに少し感心する。


計画に必要なものはこいつが情報を集めた。酒場で聞かされたのはその中でも手に入れられるだろうとふんだものらしい。


消し水……使いようによっては便利だが、その効果時間と、通った場所に水の痕跡が残ってしまうために使い道が限られてしまう。しかしその水が今回は必要なのだとか。


――まぁ仲間がいないんじゃあ潜入してちまちま罠を仕掛けてくしかないよな


国を壊すという目標を掲げているくせして、今のところ俺の他に協力者はいないという。


いったいどんな神経をしていれば一人で国を壊そうという気になるのか。


これでもし俺を見つけていなければ一人で素材集めまでするはずだったというから全く大したものだ。


何でもないような顔で言い張ったルシーの顔を思い出し、肩をすくめる。


川はすぐに見つかった。

流れが少し速いがどこにでもある普通の川だ。


流れている水を見るが綺麗な水だなと思うくらいで、あまり変わったところは見当たらない。


――この水が消し水なのか。


試しに一掬いしてみる。


匂いはない。

手で触れた感覚も普通の水と変わりなく、ベタつくわけでも何か違和感をかんじるわけでもない。

手が透けて見えることもない。


立ち上がり、体を確かめる。

異変は……見たところ見受けられなかった。


「ふふ、その水だけじゃ消えないよ」


一連の仕草を見ていたのかルシーが笑う。

軽やかな足取りで近づいてきたかと思うと、


「えーい!」


倒れこむように川の中へと入った。

水面から顔を出し、気持ちよさそうに髪を搔き上げるルシーは手で顔を拭うとこちらを見て口角を上げる。


「ほらほら、キミも入って入って!」


ルシーが手招きしている。


水深は底に足がつく程度しかなく、ルシーの身体は胸から上が水面から出ている。


そうして水の中へ誘う姿は、見ようによっては水の中に引きずり込もうとする魔物に見えなくもない。


が、これは口に出さないでおこう。


「――――冷てぇ」


促される通りに川の中へと入っていく。

水に濡れた服が抱き付くように体へと張り付き、火照っていた身体が急速に冷える。

陽が陰る前に終わらせないと風邪をひきそうだ。


「水だけならわざわざ中に入ることないんじゃないのか?」


小さく身震いしながら訴える俺にルシーは首を振り、

わかってないなぁと言いたげな表情を見せた。


「中に入らないと獲れないでしょう?」


――――獲れない?


取るのは水だけではなかったのか。

そう言葉にしようとしたところでルシーが俺の後ろ、川の下流の方を指さした。


「なんだ?」


振り向いて後ろを見る。

だが、


「……? 何もないぞ」


再び正面を向くと、ルシーの姿がない。


――――まさか流されたか!?


何の音もしなかったせいで油断した。

川の流れは速い。

もしも流されてしまったのなら急いで追いかけなければ不味い。


慌てて動きだそうとした俺はしかし、水の中で輝く金色の髪を見つけた。


流れる水に髪をなびかせながら

俺の足元目掛けてのそのそと移動している。


「……」


――――何やってんだこいつは


肩から力が抜ける。

安堵すると同時に少しの苛立ち。


足元に到達したルシーがぐっと膝を曲げるところまでを見届け、俺は手のひらを足元にかざす。


「隙あ――――ぐっ」


飛び出してきた頭を抑えつけると、ルシーがくぐもった声を漏らした。

そのままばたばたと手を振り回して、頭を抑えつけている俺の腕を両腕でつかむと立ち上がって叫んだ。


「げほっ、水、ちょっと飲んじゃった!」


涙なのか水なのかを目元に浮かべてルシーが文句を言ってくる。


「そいつは悪かったな」


間抜けな声が聞けたことで少し胸がスッと穏やかになった。


「むぅ」


薄ら笑いを口に張り付けていた俺が気に入らなかったのか再び水の中へ潜ったルシーに足を掴まれた。


水中のルシーの顔は強張っている。


だが、いくら力んだところで女の力では俺の身体を持ち上げることなど――――。


「――――っ!」


視界がぐるりと変わり、僅かな浮遊感と共に顔に衝撃。


「ふふっ、どうだ!」


いきなり視界が水の中へ切り替わったことに驚いて水面から顔を出す。


ルシーが勝気な顔でこちらに視線を送ってくる。


――――なんだ?


予想外に力が強いのか、きれいに足を掬われた。

それにしても……、


「なめんなっ!」


少し違和感を覚えながらも俺は憎たらしく笑っているルシーの腰に狙いを定め、飛びつく。


「うわぁ! 抱き付かないで!」


「ふん、おらぁ!」


掴んだ腰をしっかりと腕で締め付けながら後ろ向きにルシーを放る。


「うぇ、鼻に水が……、このぉ!」


水しぶきを上げて頭から沈んだルシーが顔を真っ赤にして水面から顔をのぞかせる。

鋭い視線を飛ばしてくると肩を怒らせながら近づいてくる。


投げて投げられて、転ばし転がされ、水を掛けて掛けられて。


そんなしょうもないやりとりをどれだけしていたのか、お互い肩で息をしながらにらみ合っていると、


「魚……?」


足元を抜けていく魚影が目に留まった。


背後を振り向けば、下流の方から続々と魚の群れが泳いでくるのがみえる。

尾ヒレを勢いよく動かし、力強く流れに逆らって進む姿。


「やっと来た!」


先ほどまでのいがみ合いを投げ捨てて、捕まえてと叫ぶルシー。


「消し水に必要なの!」


疑問を飛ばすよりも先に答えが飛んできた。


そういうことならと腰を落とし、魚影の一つに狙いを定める。

流れに逆らって泳ぐ彼らは通常の魚よりも動きが遅い。

この程度なら余裕を持って捕らえられる。


「ふっ」


ナイフで川底に縫い付けようと腕を振りかぶったところで狙いをつけていた魚影の色が薄くなった。


深く潜ったかと別の個体に狙いを移す。

しかし先ほどまでわらわらと泳いでいた魚影は一つも見当たらない。


――――消えた……!?


水の中に潜り、どこへ行ったと探す。

しかし魚群はどこにもいない。

視界に捉えることができずにいると再び下流から登ってきた後続の魚たちの群れ。


「よく見て!」


ルシーが叫ぶ。


目を凝らし、見失わないように水の中で魚を凝視する。

力強い尾びれの動き。

巻かれないように後を追う。


すると、


――色が……!


目の前を泳いでいた魚の色が薄く、透明に近い色に変わっていく。

魚は体を震わせ、尻の部分から煙を炊いている。

あの動作……。


――卵か!


今、この魚たちは産卵しているのだ。

卵を産む時に噴出する煙が魚達の身を背景に同化させている。

だから水の上からでは消えたように見えた。


だが、からくりが分かれば見失うことはない。

魚は完全に姿を消したのではなく、極端に見えにくくなっているに過ぎない。


体力を使ったのか、動きの鈍くなった魚を狙い、ナイフを――――。


――――脇腹に強烈な衝撃。


「が――――っ」


思わず肺から空気が漏れる。


むせそうになるのを必死に耐えながら、ぶつかったものの正体を確かめる。

眉をしかめ、視線を向けた先には明らかに俺を狙っている魚がいた。尾びれを素早く振り、こちらに突撃しようと構えているように見える。


ふと、その魚の後ろを見れば、後から泳いできた魚達が吸い寄せられるように俺の元へ近づいてきている。


吐き出してしまった空気をとりこむために、水面へ浮上する。


「ぐっ」


顔を出すと同時、再び衝撃。

少し尖った口元が腹に食い込んだ。

ナイフを握る右手を振り回すが、水の中の魚を仕留めるには速度が足りない。

腹に一撃入れた魚はすぐに透明に変化しここよりさらに上流へ上がっていった。


左手で腹を抑えながら思い切り息を吸う。


今度は水へは潜らずに上から魚を見下ろす。

まだ川に同化していない魚を狙い、ナイフを突き下ろす。


「そこ!」


ばしゃりと音を立て水が高くあがった。

手には何の感触もない。


「もう一回!」


負けじと2回目に挑戦するも結果は同じ。

続けて三度、四度と繰り返すも魚の身に触れることすら出来ず、空振りを繰り返した。


「やりづれぇ……」


上手くいかない原因は足場にあった。

体の半分が水に入っている状態では上手く力が載せられない。

キレも悪く、俊敏な動きが取れなくなっていた。


さらに水の上からではどうしても魚を見失いやすい。

陽に照らされた水面が時折視界を奪い、一瞬の間を魚に与えてしまう。


そして魚達の連携。

これが存外に面倒だった。


1匹に狙いをつけると、その魚を逃す手伝いをするかのように近くにいた魚が突撃を繰り返す。

飛び込んでくる魚を捉えようにもこちらが捕まえようとする気配を察すると近づいてこなくなってしまう。


「みんな逃げちゃうよー」


苦戦する俺をよそにいつのまにか川から上がって休憩しているルシー。

まったく誰のためにやっているのだと思っているのか。

ニンマリ顔がひどくムカつく。


「お前も、手伝え!」


吠えながら、ばしゃりと水面に一発。手応えはない。

突撃してくる魚が気になって集中がなくなっているのを感じる。

我ながら精彩の欠けた一撃だ。


「くそっ」


また飛び込んできた。

すんでのところで腕を盾にして受け流す。

今突撃してきた個体は既に川と同化し、見えにくくなっていた。


すぐ側に来るまで完全に川の一部にしか見えなかった……。

せめてこの突撃がなければもう少し何とかなりそうなんだが。


「『跳ね魚』くらい捕まえてくれないと……、この先不安だよー私は」


ルシーがこれ見よがしに両肩をすくめ、ため息を吐いてみせる。

どうやらこの魚は『跳ね魚』というらしい

額の血管が浮き出た気がする。


もう一度水でもかけてやろうかと思った時、一つ考えが浮かんだ。


すぐにルシーの方を向き、叫ぶ。


「ルシー! 俺の側に来い!」


「やだよー、そんな男らしく言ってもこの状況じゃときめかないかな」


「俺の盾になってくれ!」


「ときめくどころかドン引きだよ……、ってうわっ」


ごちゃごちゃ呟いているルシーを無理やり捕まえ、川の中に引きずり込む。

めんどくさいので喚いている声を無視して端的に注文を告げる。


「近づいてくる魚を追い払ってくれ」


「追い払うって……、わたし反応できないって!」


「じゃあ、体でなんとかしてくれ」


「なんとかって……」


一瞬言葉を失ったルシーが口をパクパクと開けながら何か言おうとしている。


「この魚、思ったより捕まえるのが面倒だ。俺だけだと難しい」


久方ぶりの運動に、慣れない獲物、足は水にとられ動きにくい。

そして何より今までと違い苦手分野をカバーしてくれる仲間がいない。


剣士は地上で戦う生き物だ。


水中の敵は苦手である。


不満そうに口を尖らせるルシー。

だが文句を受け付ける気はないので一方的に言い放つ。


「飛び込んでくる奴さえ無視できればすぐに捕まえられる」


「ほんとぉ?」


「ほんとだ」


仕方ないなぁ、とため息を吐くルシーを置いて俺は1匹の跳ね魚に狙いをつける。


「もう、これじゃあ何のためにキミに頼んだのか」


「おらぁ!」


俺の動きに合わせて近くの魚が飛び上がる。

俺の狙った個体を守るために合計3匹の跳ね魚が飛び込んできた。


「はわぁ、ぐぇ!」


しかしその突撃をルシーが受け止めた。

素っ頓狂な声と小さく濁った悲鳴がわずかにルシーの口から漏れた。

うわ、痛そう。


脇腹に当たって着水する1匹、顔に当たった1匹。そして腹にめりこんだ1匹。

3匹の魚を受け止めたルシーは声もなく前屈みになった。

小さく震えている。


だがその犠牲によって、


「1匹仕留めたぞ!」


ルシーの盾によって

エラの部分にナイフの刃を突き刺すことに成功した。


「こいつ、何匹とるんだ?」


悶えているルシーに問う。


ルシーは苦しそうな顔でこちらを向き、指を五本立ててみせた。

五本ということは、あと四匹。


「よし、後四回! 頼んだぞ!」


意気込む俺は腹を抑えて苦しむルシーの肩を叩く。


顔を上げたルシーの顔は中々に間の抜けた表情をしていた。


※※※※※※※※


「悪魔……、女の子の体を……、ひどい」


川辺に寝転ぶルシーからの抗議には聞こえないふりをして、俺は仕留めた『跳ね魚』の血抜きを行う。

体に入れた切れ込みから流れ出す血を腰につけていた革袋に入れていく。


見た目はすこしボロっちいが水袋と変わらない性能を持つ。

だからこぼれることはないし、持ち運びも容易い。

ただ液体が入った状態であまり衝撃を咥えると破れてしまうからそこは気を付けなければならない。


5匹分の血抜きを済ませ、布袋に血を注ぎ終える。

流石に5匹分となるとかなりの量が取れた。

手についた血を落とすために川の水に手を付けると、


「……! 手が消えた!」


血の流れ落ちる一瞬ではあったが血に濡れていた部分の手が、跳ね魚が川に擬態した時のように僅かに透明になった。

自分の体に起きた現象に思わず胸が昂る。


やはり話に聞くのと実際に見るのでは感じ方も違う。

苦労して取っただけにその確かな消えっぷりは興奮に値するものだ。


少し面白くなってきた俺は腕や足、手のひらなどに血を塗りたくり、川の水を掬って血の付いた箇所を撫でる。

血と混ざりあうように水の量を調節して、石鹸で体を洗うように水を塗る。


「おぉ……!」


消えていた。


自分の身体があるはずの場所が、何者かに切り取られたかのように抜け落ちている。

実際に手で触れればそこには肉の感触があるが、視界には何も映っていない。


透明化した腕の部分を激しく振れば少し違和感は生じる。

だがそこに腕があるはずと認識している状態だからこそその違和感に気づける、それほどに見事な擬態だった。


「おもしろいな……」


消え水がここまで姿を消すことができるとは知らなかった。

確かにこれならば潜入にはもってこいだ。

跳ね魚の動きにも慣れたからそろそろ一人でも仕留められそうだし、もう少し血を集めてもいいかもしれない。


「問題はこれを使うとき、この水滴をどう誤魔化すか、だよな」


体から滴り落ちる水滴が地面を濡らすのを見て、俺は頭を捻った。


消し水は特殊な効果を持っているがその実はただの水だ。

体に塗りたくればそれは身体を伝って足元へ流れる。

そうして地面にできた水跡はそこに何かがあったことを容易に勘ぐれてしまう 


対策はしっかり取らなくてはならない。


と、そこで妙にルシーが静かなことに気付いた。


「……?」


先ほどまで転がってぶつくさと文句を言っていたルシーがいない。


またか、と思いつつざっと辺りを見渡す。


ところが気配がない。


隠れられるような場所もないため、川の時のように脅かそうとしているわけではなさそうだ。


「どこいった」


ということは、今度こそ何かにさらわれた可能性がある。


さきほどまでルシーが寝転がっていた地面にこすれた様な跡。

引きずられるような跡は森の中へ引き返すように続いている。


「……めんどくせぇ」


森の中を見る俺の目の前に、一匹の獣が現れた。


身体は硬そうな茶色い剛毛に覆われ、むき出しの牙は見てわかる程鋭く尖っている。


餌の気配に誘われたのか、よだれを垂らしながらこちらへ歩いてくる様は飢えた獣という言葉が良く似合う。


獣は、俺の姿をみとめると大きく叫び声を上げ、俺の方へ走り出した。


その咆哮に合わせ、俺も前へ駆ける。


ナイフの柄をぎゅっと握りしめて迫ってくる獣の首を撫で切るように刃を傾ける。


「――――っ」


獣と交差する直前、体が引っ張られるような感覚。


体の一部が引きつるように動かしにくい。


思わず傾けていた上体を持ち上げ、前へ踏み込むために動かしていた足を全身を止めるために前に出す。


つっかえ棒のように地面へ斜めに突き刺さる足が、土を削りながら勢いを殺す。


つんのめりそうになりながら、俺はぐっと足を屈めると後ろへ飛び去る。


着地すると同時に体についた何かを斬り払う。

微かな抵抗の後、ナイフが切り裂く感触。

はらりと地面に待ったのは先程まで目にしていたもの。


それは糸だった。


粘着力と共に僅かな弾力を持ち合わせる、蜘蛛の糸。


「ガァ!」


今しがた俺がいた場所へ突っ込んだ獣が地面に大きな穴を開ける。

前足についた鋭い鉤爪は大地を抉り、その威力の程を示していた。


空振りに終わった攻撃は獣をさらに興奮させる。

怒りに満ちた表情は視線を俺に定め、すぐにその巨体を動かそうとして、


――――失敗した。


「ガ、グァ!?」


何故自分の体が動かないのか、獣は分かっていない。

困惑に染まるその顔が、ようやく後ろ足に絡みつく糸の存在に気づく。


が、遅い。


瞬く間に捕らえた獲物をぐるぐる巻きにしたは素早く動き回り、獣の足を中心に円を描くように動く。


後ろ足を封じられた獣はもがき、叫ぶことしかできずその巨体を暴れさせるも絡みつく糸は次第に獣の全身を包むようにせり上がっていく。


やがて、その見事な茶色の剛毛が見えなくなると、獣に糸を巻きつけていたそれ(傍点)の動きが止まる。


「ずいぶん小せぇな」


獣の動きを瞬く間に封じてしまったのは蜘蛛だ。


それも今日俺が殺したのと同じ蜘蛛。


違うのはその大きさ。


素早い動きに相応しく、その蜘蛛は今日仕留めた蜘蛛よりもずっと小さかった。


――――子供か?


きっとあの仕留めた蜘蛛以外にもいたのだろう。

簀巻き状態になった獣から視線を外し、カサカサと動き回る小蜘蛛へ注意を移す。


「むー、むー!」


くぐもった声。

声の方を見れば人型の簀巻きが一つ、木の上にぶら下がっている。

声はぐねぐねと気持ち悪く動くその中から聞こえてくる。


――生きてたか……。


安堵しかけ、肩の力を抜きそうになるが、

しかし視界に入ってきたものを見て俺はすぐに身体を緊張状態へ戻す。


大軍とは呼ばない、だがそれは今の状況において不利だということを悟るには十分な数だった。


ゆうに、十を超える蜘蛛の姿を捕らえ、俺は足の調子を確かめるように二回、地面をつま先で叩くと大きく息を吐き出した。

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