『小川とやましんの対話』

やましん(テンパー)

『小川とやましんの対話』


『むかし、この流れに身を投げた


若者がおりました。』



『ふんふん。どうなったの?』


『わたくしは、そのすべてを


うけいれる、深さも、流れもありません。


 もし、大雨ならば、ちがったでしょうか。


 若者は、流れのなかを


 歌いながら、歩いてゆきました。


 どこまでも


 でも、わたくしは、


 やがて、大きな川にでます


 そこで、大河の流れに消え去るのです


 だから、その先のことは、よくわからない


 ただ、若者は、大きな流れには入らず


 土手にあがり、歌い続けていたようです』



『そうなのか。で、若者は、失恋していたの?』


『たぶん、そうです。なんどか、

可愛い人がいっしょだったから。


 でも、やがて、彼女は、べつの人と

やってまいりました。

 それを、若者は、見ていたのです。』


『あらまあ、喧嘩になったかい?』


『さあ、わたくしには、そこまでは、見えませんでした。』


『そうなんだ。』


『そう。でも、そのつぎに来たとき、若者は、川に入ったのです。』


『ああ、じゃあ、きみはやはり、愛とか恋のなせる技を知っているんだろう。』


『愛とか恋のことは、生き物の分野です。わたくしは、そこに、光を照り返すのがお役目ですから。』


『相手がだれかは、関係ないか。』


『まあ、そうです。たしかに、流れに入った方に、子守唄は、歌いますよ。それがだれであれ。』


『そうなんだ。じゃあ、やましんにも、聞かせてくれるかな?』


『それは、もちろん。しかし、今日は流れが早い。あなたは、歳をとった。社会の流れにも、小川の流れにも、ついてはゆけない。あなたは、むかしのようには、もう、歌えない。』


『ぶ! まだ、いい声だよ。』


『みな、そう、おっしゃいますけど、はたからみれば、わかってしまう。ひとさまに、迷惑なだけです。』


『ぎょわ❗ 小川さんにも、拒否されるのか。なんと、悲しいこと。』


『この世の風さんから、あなたの終末が告げられるときには、歌いながら、流れましょう。』


『そうなのか。ありがとう。時は、短い。』


『そうです。時は短いのです。だから、歌は美しい。いまは、すこし、待ちましょう。』



       

 


 




 

 

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