兎角伯爵の家庭教師
高里奏
序
この半世紀のうちに科学というものは魔術の居場所をどんどん侵略していった。
レイチェル・キャピラーもその犠牲の一人だ。
レイチェルは貧乏子爵の家の一人娘として生まれたにも関わらず、魔術学校では主席の成績を修め卒業した。このままうまくいけば宮廷魔術師への道まっしぐらだと父もレイチェル自身も疑っていなかったと言うのに、どうも王室は近頃科学へ傾倒しているらしく魔術師の削減が行われ、とうとう今年は新人の募集さえ行われなかった。つまり、レイチェルは就職に失敗してしまったのだ。
魔術師になるために努力を続けてきたのに、このままでは親子ともども路頭に迷うことになる。父は多額の借金を抱えてまでレイチェルを学校に通わせてくれたのだ。キャピラー子爵家は財政だけでは無く屋敷の建物まで傾いてしまっている。
父の役に立ちたい。宮廷魔術師になって自慢の娘だと思われたかった。なのに、レイチェルはその道を失ってしまった。国民はすっかり科学の虜になり、最早魔術は胡散臭いもの扱いだ。魔術学校を卒業したなどと言えば使用人にも使ってもらえない。そもそも父がレイチェルが使用人になることには反対し続けている。腐っても貴族。彼はそれだけは絶対に譲らなかった。
そんな時だ。新聞に広告が乗っている。
家庭教師急募。十八歳以上。男女不問。意欲のある方。魔術を教えられる方。住み込み歓迎。制服支給。給与は面接にて相談可。
やや胡散臭い。しかし、広告主は伯爵らしい。もしかすると伯爵家のお子さんが魔術に興味を持ち始め、子供に甘い伯爵が家庭教師を雇うことにしたのかもしれない。だとすれば、これはレイチェルにとって好機だ。これを逃さない手は無い。レイチェルは早速応募先に手紙を書く。
伯爵家の家庭教師なら相当給料も待遇もいいはずだ。それに、ホワイト伯爵と言えば、社交界には顔を出さないけれども悪い噂は一切耳にしない。少し変わり者だけれど温厚な人物だと聞いている。
これはきっと天の導きに違いない。レイチェルはどきどきしながら返事を待った。
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