あなたのおとなり

みなづきあまね

第1話 あなたのおとなり

あの人の近くにいたいなー。定時が過ぎて、それでも何が変わるでもなく、パソコンとにらめっこしていた私は、休憩がてら、伸びをした。その時、通路向かいのデスクに座っている彼が目に入った。


今日も無駄話をすることなく、淡々と仕事をしている。ときどき周りの面白い話に一緒に笑っているけど、基本真面目。しばらく髪を切ってないから、ちょっと伸びた髪をたまに邪魔そうにしている。


あまり笑ったり冗談を言ったりしないんだけど、笑うとすごくドキドキする。いわゆるイケメンじゃないけど、よく見たら目は綺麗に左右対称の一重、鼻は平均より高いし、歯は白くて乱れがなく、笑えば形のいい唇が上がる。肌も、一見髭が濃そうなのに、近づくと滑らか。


こんな観察してると、なんか変態みたい・・・でも、本当に素敵。たまにネクタイを締めないで出勤するけど、席についてからネクタイを結ぶ時なんて、生きてて良かった!って思う。


近づきたいけど、そんなパーソナルスペースにまで入るチャンスってなくない?


そんなことを思っていると、お客さんが来た。私がお世話になっている他社さんだ。


「あ、こんにちは!どうしました?」


「いつもお世話になってます。この間渡していただいた書類の訂正版をお持ちしたんですが、一部訂正の仕方がわからない箇所がありまして。」


よく見ると、それは私ではなく、彼が付箋を貼って訂正依頼した書類だった。私が基本受けてる仕事だが、不在の場合、来年も引き続きやる彼が対応していた。


「あー、これ、私じゃないんですよ。うーん、たしかにどこを訂正してもらいたかったんだろう。今、聞いてきますね!」


私は書類を持ち、彼のところへ行った。


「あの、すみません。今、例の書類の訂正版が来たんですけど、ここ、何を訂正したかったか覚えてます?」


私は彼に書類を見えるように差し出した。すると彼は一歩私に近づき、書類は私に持たせたまま、読み始めた。


近い・・私の頭が彼の肩あたりに当たった。ドキドキして返事を聞きそびれそう。


「んー?ああ、ここかな。でも訂正されてますね。付箋の貼る位置が悪かったな。これで終わりですか?」


「はい、あとはこちらの公印を押してお渡しです。郵送しますかね。」


私達は後日郵送すると決め、来てくれた社員さんにお礼を述べ、見送った。


「じゃあ、明日上に頼んで、押してもらったら、送りますね。」


私がそういう横で、彼は保管棚のカギを持ってきて、正しい鍵を選んでいた。私が棚を開くのを待っていると、


え、待って、近い、近い!


私の目線より少し上にある鍵穴に彼は右腕で鍵をさし、私は左側にいたため、彼と棚に挟まれた・・というか、彼が私の後ろから鍵を開けてる感じになった。


壁ドンならぬ、鍵ドン状態。あー、鍵、開かなくていいよ!


開いたけど。


私は気が動転したが、彼はなんともない涼しい顔で棚を開け、私が物を入れると、棚を閉めた。


私は席に戻った。彼も自分の席で仕事を再開した。


あなたのおとなりは、刺激が強かったです・・・

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