エプロン💝マニア
@nakamichiko
第1話 診察室の嘘
「裸エプロンが嫌いな男なんて・・・いないと思うよ」
結婚したての夫がそう言ったのを、まあ、素直に受け入れたのがすべての始まりだったのかもしれない。
もしこれを強く否定したならば、きっと夫婦の間に溝、いやいやクレバスが出来て、どちらか一方が落ちてしまった、とまで想像できるのも、今人並みの生活が出来て、子供も、変わらず夫もいるからかもしれない。
しかし、そのころを思い出している顔を絶対に誰にも見られたくないと、私は常時気を付けている。だから本当にキョロキョロした後で、懐かしい時間旅行に浸る。
自分がきっと、にやけて、恥ずかしそうで、若い子のもじもじした感じの、カワイイ頃に戻っているのなんて見られた日には
「近所を歩けなくなるかもしれない、きっと何かに気が付いているかもしれないし」
誰かが謎解きのような事をしないのを、切に願っている毎日が続いている。
もちろん犯罪めいた所は何一つない。家の中で夫婦が何をしようと、許されてよい聖域なのだから、他人は関係ない。だがちょこちょこ人の目は気にしなければならなかった。生きていくうえで、その程度の苦労は良しとできる心の余裕は、家庭を持ったゆえに私にも出来たのだった。
そう、すべては私と夫、その夫のそこまで変態的ではない趣味と優しさと、私の体質が原因だった。
「ごめん、大丈夫かい! 真っ赤になって! 買ってから一度洗濯したんだよね」
素肌に着けたエプロンの形、まさに写し取ったように、私の体には湿疹が出てしまった。
「洗ったの、私どうもすごく肌が弱いみたい。何年か前骨折で手術して、先生に言われたの。自分でも気が付かなくて」
「ごめん、通販で格安だったんだ。もしかしたら古いものかもしれない、すぐにシャワー浴びて落とそう」
その後夫は慌てふためいて、色々私の世話を焼いてくれた。
ずっと謝りながら、そうしている夫の姿がやっぱりうれしく思えた。
「そう言えば、私ニット系のズボンでこんな風になったこともあったから、気にしないで。素材のせいかもしれない」
「そうかも・・・明日病院で詳しく検査してもらって」
ということで翌日皮膚科に行った。
「原因は、シャツですか? クロスして背中が大きく開いてますね。デザイン的なものですか」
「ハイ・・・・」
「では上半身だけの湿疹ですね」
「そうです」
もちろん太もものあたりまで赤いのだが、エプロンのカーブまできっちり残っていたため、先生に診察してもらう勇気はなかった。
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