世界平和

早起ハヤネ

第1話 ニュース

 ブゥ、と音がしてスマホを手に取ると、ある重大なニュースが届いた。

 要約すると内容はこうだ。

 ……数時間前、中国のアマチュア天文家が太陽系から六百光年離れた恒星ベテルギウスが超新星爆発を起こしたことを発見し、そのことがもし本当なら、爆発により生じた放射能が地球にまで降りそそぐ」という。

 専門用語では、ガンマ線バースト、という。

 ガンマ線とは、放射線の一種である。

 これを、どうして、速報で流さないのか。

 守城功次もりしろこうじは憤慨した。この小さなニュース記事では、ほぼ、重大と考える人は皆無に違いない。

 今度は、テレビをつけてみた。報道番組をやっていたが、芸能や政治家のスキャンダルばかりだった。

 なぜ、速報を流さないのか。アマチュア天文家が見つけただけだから、重大ではないと判断しているのか。

 確かにそうかもしれない。

 それに、地震や台風といった差し迫った災害の速報よりは優先順位は低い。しかし、放射線である。しかも、超新星爆発で生じるガンマ線だ。やがて地球にも到達するというのに。

 多量の放射線は、オルビドス紀に生物の大量絶滅を引き起こした原因のひとつとも言われている。生命の大量絶滅では、気候変動や隕石の落下や自然淘汰の他にも放射線絶滅があったことはあまり知られていない。

 ガンマ線が降りそそぐと、まずオゾン層がすべて破壊される。オゾン層がなくなるとどうなるか。小学生でも知っている。太陽から有害な紫外線がまともに降りそそいでくる。日焼け止めクリームP+だとどれぐらいまで防ぐとか、そんな美容レベルの話ではない。

 致死量に相当する紫外線が降りそそいでくるのだ。紫外線は人だけに有害なわけではなく、すべての生物にとっても有害なものである。

 放射線の人への害というのはいまいちイメージが湧きづらいが、DNAが損害を受けて臓器が死亡することがある。臓器が機能しなくなったら、急死ということになる。

 それにつけても、超新星爆発である。ベテルギウスは、オリオン座の冬の大三角形の一点としても有名だ。

 このままでは人類滅亡もありえないことではない。それ以上に地球自体が汚染されて生命の住めない惑星になる可能性もある。

 地球滅亡のシナリオは、映画やアニメなどのフィクションでは、ままよくある題材のひとつながら、まさかリアルにそうしたことが起こるとは……。

 どうするんだろう?

 当然のことながら日本だけの問題ではないだろう。アメリカはどうするんだ。中国は。インドは。EU諸国は。

 守城はしかし、きょうの夕食をどうしようかと悩んだ。

 仕事の帰りに買い物をするのを忘れてしまった。一度家に入ってしまうと、その後は外に出るのが面倒くさいタチである。

 ソファに涅槃像みたいな体勢でテレビを見ていると、なおさら外に出たくなくなる。別に面白い番組をやっているからとか関係ない。必要なものは全てテーブルの上、リモコンも手の届く範囲に置いてある。

 しかし便利な世の中である。空腹でも外へ出なくても食べ物を届けてくれるサービスがある。

 宅配ピザをオーダーした。

 二十三時頃になると、ようやくどのチャンネルの情報番組でも、超新星爆発によるガンマ線バーストの影響の大きさについて、ちらほらと放送し始めた。

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